第46鉄 雪国の美女とダイヤモンドダスト――米坂線杉山淳一の+R Style(3/6 ページ)

» 2011年03月09日 11時50分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 坂町駅到着は05時34分。米坂線の列車は07時17分発。約2時間もある。しかし周囲は暗いし、この時間では店も開いていない。まだ温まっていない待合室で過ごすしかない。ジュースの自動販売機は稼働していたから、缶コーヒーを2つ買って、左右の手で握ってカイロの代わりにした。この間も羽越本線の列車の発着があって、その列車へ家族を乗せるためのクルマがやってくる。そんな風景を見ているうちに夜が明けてくる。真っ暗な空がインクブルーになり、闇に沈んでいた建物の輪郭が現れて、街路を見通せるようになった。

坂町駅の夜明け

小国街道を行く

 米坂線は小国街道に沿っている。小国街道は江戸時代に整備された街道で、越後からは干物など海産加工品や塩が運ばれ、米沢からはちりめんの原料となる植物、アオソ(カラムシ)が運ばれたという。テレビドラマで黄門様が名乗る「越後のちりめん問屋」は、新潟周辺だけではなく、米沢、山形からも原料を調達していたそうだ。

 このルートの鉄道整備は、山形盆地を拠点として、日本海と太平洋を結ぶルートの一部として計画された。日本海方面が米坂線、太平洋方面が仙山線だったようだ。しかし、実際にはそれほど重用されなかったらしい。近年になると奥羽本線は山形新幹線の整備のために線路幅を広げたから、米坂線の列車は山形へ直通できなくなった。貨物輸送も途絶えたいま、米坂線は長大なローカル線になっている。全区間を直通する列車は1日5往復しかない。

米坂線の米沢行き

 坂町発07時17分発の米沢行きは、同駅07時05分着の列車として到着した。2両編成のディーゼルカーは高校生で満員だった。折り返す列車はガラガラ……と思ったら、秋田方面からの特急が到着。乗り換え客が少なからずいた。旧街道の人の流れは絶えることがないらしい。ディーゼルカーはボックスシートのそれぞれに、1人から2人のお客を乗せて走り出した。明るくなった車窓には雪がなかった。畑は緑色。この時期に何を植えているのだろう。大きな川が平行しており、その川が遠ざかると、遠くに雪化粧の山々が見えてくる。しばらく走ると、また川が寄り添い、片側1車線の道路と三つ巴で谷に入った。

新潟県側は雪がなかった
峠を越えると銀世界に

 線路の上り勾配が始まり、ディーゼルカーのエンジン音が大きくなった。川幅が狭くなり、険しい地形に合わせて鉄橋が架けられ、線路と川の並びが入れ替わる。ダムになっている場所もある。変化に富んだ車窓である。雪は見えないな、と思ったら、トンネルを越えたとたんに風景が真っ白になった。県境を越えて盆地に出たようだ。真っ白な大地。昨夜に積もった雪なのか、動物の足跡もない、見事な雪原だ。その白い反射で車内も明るくなった。

白い大地が広がった

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