カチナの部屋を通過して次なるギャラリーに足を踏み入れると、そこには一面、倉俣史朗の世界が広がっていた。雲のような曲線を描いた台の上に足元からふんわりとした照明が照らされ、倉俣氏が1980年代以降に手がけた作品が並べられている。
照明のせいか、異次元に迷い込んだかのようなファンタジックな雰囲気が空間全体に感じられる。作品の数は全部で65点。その半分以上は家具だが、プロトタイプを含めた香水L’EAU D’ISSEYのためのボトルデザインや、モーター仕掛けのキューピー「アモリーノ」など、小物も多く揃っている。
華やかな存在感で注目を集めるのは、何といっても4脚も揃ったアームチェア、「ミス・ブランチ」だ。チェア本体の透明なアクリル樹脂に閉じ込められたバラは、宙に舞うかのように留められている。近づいて目を凝らしてみても、細部にわたって美しく不純物は一切見えない。
バラが舞う一瞬をとどめた作品は、永遠にわれわれの心に焼きつくほどのインパクトを与えてくれる。ちなみに、「ミス・ブランチ」とは、テネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』の主人公の名前に由来する。
アクリル樹脂を使った作品は、ほかにも並んでいる。蛍光色のアクリルを巧みに使った飾り棚「カビネ・ド・キュリオジテ」からは、美しい影が投影されていた。
一方、会場の中で、ある種の異彩を放っているのが「ビギン・ザ・ビギン」だ。椅子にスチールワイヤーを巻きつけて燃やし、焼け残ったワイヤーだけとなったアーティスティックなアプローチの作品である。これは、オーストリアのデザイナー、ヨセフ・ホフマンへのオマージュとして知られるもの。椅子を燃やすときに倉俣氏はそっと手を合わせたという。
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