震災を機にジャストインタイム生産は見直すべきか?(1/2 ページ)

» 2011年04月13日 11時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 東日本大震災の影響でサプライチェーンが寸断され、多くの企業が供給停止になっていることを受け、効率・利潤追求を目指し在庫を極限まで減らすジャストインタイムの弊害が喧伝されている。果たして、震災を理由にジャストインタイム生産を見直し、在庫を積み増すべきか?

 答えは明確に「No」。

 では、すべての企業でジャストインタイム、在庫削減を実施すべきか?

 これも答えは明確に「No」。

 これらは問題の立て方が間違っている。そもそも在庫で今回の震災に対応できただろうか。恐らく、焼け石に水だっただろう。災害時に在庫を持っていても、同じ拠点にあれば同時に毀損し、使えなくなっていた可能性もある。リスク分散のために在庫を離れた場所に持っていては、緊急時に間に合わない。また、今回の被災では交通網や物流網が寸断されている。これでは、非常時用の在庫の意味がない。

 仮に在庫が使えたとしても、どれだけ在庫を持てば良いだろうか。今回の震災では、非常に多くの業種の工場が被災し、生産停止や供給不足となっている。モノの生産はネジ1本含めて、欠品があれば止まってしまう。基幹部品だけでなく、ネジ1本に至るまであらゆる品目において在庫を積み増すというのだろうか?

 今回の震災に在庫で対応しようとするなら、2〜3カ月、いや半年分はすべての品目について在庫を持っていなければ対応できなかっただろう。災害や事故は起こってからでなければどの品目に影響が出るのか分からない。特定の品目に絞って、ピンポイントで在庫を持つことで対応できる問題ではない。

 企業の目的は、事業で顧客に報いること。そのためには、利益を継続的に挙げていく必要がある。在庫は経営やオペレーションの問題を見えなくする。在庫は、営業→計画→生産→調達→物流のバッファーであり、これを多めに持つことは、オペレーションの弱い部分を隠すことになり、その弱い部分が企業の足を引っ張るまま、いつまでも問題を内在させることになる。

 在庫を保有することはコストだ。在庫は、保有金額の2〜3割の管理コストが掛かると言われている。それだけ、オペレーションコストが上がってしまう。また、在庫を多く持って経営している分だけ、資産効率も悪くなり、ROA※やROE※※が低くなる分、投資家からの評価も悪くなる。在庫を多く持つということは、オペレーションの効率だけでなく、資金調達にもマイナスの影響を与えるということだ。

※ROA……Return On Asset。企業に投下された総資本(総資産)が、利益獲得のためにどれほど効率的に利用されているかを表す指標。
※※ROE……Return On Equity。企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合。

 在庫を持つことは、経営の機動性にも大きな足かせとなる。在庫は、商品の改廃、新製品投入のタイミングにも影響する。在庫があると、企業としては、それを使い切るまで商品の改廃や新製品の投入を遅らせたくなる。これは製品在庫の問題だけでない。部品や原料在庫であっても、特定製品だけにしか使われないものは多々あり、これらの在庫の持ち高は、それを使う製品の改廃や新製品への切り替えタイミングを遅らせる。

 在庫を多く持つことで、突発的な災害や事故にたまたま対応できることはあるかもしれないが、そんな場当たり的な経営では、そもそも平時の競争を生き抜くことができない。ジャストインタイムを行うべきか、在庫をどこでどれだけ積むべきかは、各社のビジネスモデル、リスクの取り方に関わってくる問題で、震災への対応はこの問題を検討する中でのあまたある項目の1つに過ぎない。

 どれだけ在庫を持って震災に備えるかというのは、在庫の持ち高だけの問題でなく、調達→生産→在庫→配送の全体で、平時のオペレーションの効率とリスクマネジメント、危機対応とをどうバランスさせるかという問題だ。

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