太陽エネルギーで世界一周飛行を目指す、夢のソーラーインパルス・プロジェクト(前編)秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(5/5 ページ)

» 2011年04月15日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]
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太陽が沈み、世界初となる挑戦が始まる

 ソーラーインパルスは巨大なグライダーのように、静かな飛行を続けている。少しずつ、慎重に高度を上げ、目標である高度8500メートルに到達。離陸から16時間半が経過した。夏のヨーロッパ特有の長い一日が終わり、太陽が沈む。ここからがまさに、世界初となる挑戦の始まりである。

飛行機と空と旅 間もなく日没時間だ。それから再び太陽が昇るまで、飛び続けられるか?

「高度を下げて、バッテリーモードに切り替えて!」

 地上から指示が入る。これからおよそ7時間、バッテリーに備蓄されたエネルギーだけで夜間飛行を続けなければならない。シミュレーションで検証を繰り返してきたものの、実際の空では初めてのトライアルだ。日付が変わり、時刻は真夜中の3時半。格納庫の中にある管制室のスタッフたちの緊張感が高まる。

 搭載したバッテリーには、10時間飛行できる太陽エネルギーを蓄積できる。それを実証することが今回の大きなテーマで、パイロットにとっては命がけの挑戦だ。午前5時40分。ソーラーインパルスは、無事に朝日を迎えることができるのか? 管制室では、日の出までのカウントダウンが始まった。

「5、4、3、2、1──」

「やった、やったぞ! 夜明けまでとうとう飛び続けた!」

飛行機と空と旅 着陸機に駆けつけるピカール氏と、身体いっぱいに喜びを表現するボルシュベルク氏

 離陸から24時間。この24時間飛行を繰り返すことで、理論的には永遠に飛び続けることが可能になる。ソーラーインパルスはそれからさらに2時間ほど浮遊を続け、計1000キロにもおよぶ飛行を終えて再び滑走路に降り立った。管制室から大きな拍手がわき起こる。そして集まった見物客たちからも。スタッフ全員が管制室から飛び出し、機体のもとへ満面の笑顔で駆け寄っていった。

後編では、プロジェクトの2人のリーダーへのインタビューをお届けする)

著者プロフィール:秋本俊二

著者近影 著者近影(米国シアトル・ボーイング社にて)

 作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。

 著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。

 Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。


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