コラム
» 2011年05月25日 10時00分 公開

Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/4 ページ)

[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

 ちょっと専門的な話になるが、コンピュータ系でノイズを生かしているものに、「遺伝的アルゴリズム」(Genetic Algorithm)がある。人工的に(ソフトウェア的に、バーチャルに)作った遺伝子を交差させることを繰り返しながら、より優れた遺伝子(問題の答え)に近づけていこうというものである。

 このときに「ノイズ」が重要な役割を果たす。2つの遺伝子を掛け合わせて1つの遺伝子を作り出すことを繰り返しているだけでは、答えに近づかないのだ。そこで、突然変異的なノイズを加えてやることによっていきなり答えに近づくことがある。自然界の場合、これは宇宙線(大気を突き抜けて宇宙からやってきた放射線)がきっかけとなる。遺伝的アルゴリズムを使って、わたしもパングラム(26個のアルファベットの文字を1回ずつ使った文を作る)を解こうとしたことがあるが(参照リンク)、ノイズの効果を目の当たりにして驚いた経験がある。

 以前、『週刊アスキー』増刊の企画で、脳の研究者である池谷裕二さんにお話をうかがったことがある。その中でわたしがいちばん興味を持ったのが、「脳はノイズを駆動力にしている」というお話だった。実は、脳の消費カロリーが20Wの電球くらいというのは、池谷さんのした話なのだ。

 脳細胞は、例えば1000個の入力があって1個の出力があるというような構造をしている。そんな素子が1000億個くらい集まった巨大なネットワークが、脳だといってよいだろう。そのネットワークは、脳の活動とともに自身を書き換えていく。脳細胞同士のつながりの強さを変化させながら動いている。遺伝子とはメカニズムは異なるが、どんどん書き換えながら動いていくという点では共通している。こうしたシステムでは、遺伝的アルゴリズムがそうであったように、ノイズが重要な役割を果たすようなのだ。

 ノイズに関しては、池谷さんの著書に「確率共振」という現象の話も出てくる。例えば、白い紙に20%の濃さで文字を書く。この文字の濃さをどんどん薄くしていくと、あまりに薄すぎて人間の目では文字が読めないところまでくる。ところが、その上にパラパラとゴマのような黒点のノイズを撒いておくと、あら不思議、文字が浮かび上がって認識できるようになる。脳の計算理論やネットワークとどう関係するかまでは説明できなくても、いかにも邪魔なだけに思えるノイズが、とても有効な力を持っているということは分かる。

 どうも「ノイズ」というものは、とても可能性があり、また面白いものらしい。そして、2009年秋頃から日本でもブレイクしている「Twitter」の持つパワーの秘密は、実は「ノイズ」ではないかと思うのだ。

 2006年に開始されたサービスであるTwitterが、なぜここに来てヒットしているのか? わたしは、2007年の春にアカウントをとったが、少し触っただけで放っておいたままだった。実はそういう人は少なくないらしく、今ごろになってそのメディアとしての可能性が再発見されている感じだ。Twitterの広がり自体が、ゾクゾクするような胸騒ぎのする出来事になっている。

 ネットの世界の新しい動きに敏感なユーザーが積極的に使い、優れた本も何冊も書かれている。Twitterの中でも、自分たちがいま使っているサービス(Twitterや関連ツール)に関する話題は少なくない。2009年までの会員数の伸びから推定して、日本での利用者数は、400万人を超える盛り上がりになっているものと思われる。仮に、これが一過性のブームで終わるとしても、Twitterが内包していたメカニズムのいくつかは、何らかの形で残るはずだ。要するに、1つのトレンドを作ったと思える。

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