Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(4/4 ページ)

» 2011年05月25日 10時00分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研
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 いままでのメディアは、発信された情報をそのまま伝えることが重要視されてきた。加工されたり、演出されたり、選択してある部分だけを切り出して伝えることはあっても、それは元の情報を伝えようと努力した結果だったと思う。デジタルに関していえば、「情報を劣化せずに伝えることができる」というのが大きな売りになっていたはずである。コンピュータ・ネットワークの世界でも、ながらくデータが損なわれることなく伝えられることが重要だった。

 ところが、Twitterでは、1回のつぶやきは140文字までという制限(日本では漢字コードで140文字だが、英語ではアルファベットで140文字なので、さらに情報量は少なくなる)の中で、「Retweet」や「Reply」されるたびに、どんどんノイズが加わり、情報は尻切れトンボになっても伝わっていく。

 しかし、Twitterでの発言は、まさにクラウド上に置かれている。ここで行われたのは、情報劣化した最後のつぶやきを求めるプロセスではなく、新しい知識情報処理というべきものなのだ。もちろん、このようにネット上の発言が引用され、コメントされ、あるいはノイズが加えられるようなことは、いままでもあった。ブログメディアやはてなブックマーク、2ちゃんねるやニコニコ動画がそうだといえる。しかし、どうにもTwitterには、それらとは少し違うものがある。

 それは、「ノイズ」の持つパワーを、意図していないとしても、積極的に利用してしまっているということかもしれない。Twitterのような、人間のネットワークで伝聞されていく過程は、いままでのブログメディアや掲示板などにはなかったものだ。これが、何か別のものを生み出すような予感がする。つまり、わたしには、Twitterは、「コミュニケーション革命」というよりも、「コンピューティング革命」に思えるのだ。何か具体的な問題を解く、新しい手段への入り口のように見える(botが重要な役割を果たす可能性がある)。

 たまたま、エネルギー効率の話から入ったが、コンピュータの世界も、様変わりしていく可能性がある。大量生産・大量消費を、ネットワークの上に移設しただけのシステムは、いずれ姿を変えざるをえなくなる。グリーンITというような話ではない。もちろん、省電力は当面の間キーワードだし、手元のパソコンのソフトでやっていたことをクラウドでやれるようになり、スマートフォンやタブレットで事足りることも増えるだろう。しかし、そうではなくてさまざまなコンピュータ・ソフトウェアというものの概念すら変えてしまうようなことが起こるような気がするのだ。そのとき、Twitterのような「もうひとつのクラウド」ともいえるものと、「ノイズ」がポイントになる。

 それはまだ始まったばかりで、どんなことになるのか何も見えていないに等しいのだが。【遠藤諭、アスキー総合研究所】

遠藤 諭(えんどう さとし)

ソーシャルネイティブの時代 『ソーシャルネイティブの時代』アスキー新書

 1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。

 コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。


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