『東のエデン』『ピンポン』のアスミック・エース社長が語る劇場配給ビジネス(6/6 ページ)

» 2011年05月27日 14時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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興行のスクリーン数はどう決まるか

 コンテンツ事業を支援する東京コンテンツインキュベーションセンターの一室で行われた豊島社長の講演。講演後、業界に関わる会場の参加者からも質問が寄せられた。

――予算などいろんな条件で決まると思うのですが、基本的にどういう流れで興行のスクリーン数は決まってくるのでしょうか。

豊島 これはアニメ映画に限らず、配給会社が意図しているところと、興行会社が作品にどのくらいのポテンシャルを感じているかというところで、配給会社と興行会社が相談しながら決めます。つまり、配給会社が「この映画を300スクリーンで公開したいんです。ある程度、P&Aのコストをかける用意もあります」と言っても、興行会社が「うちはシネマコンプレックスを50サイト、全部で500スクリーン持っていますけど、その作品だと10サイトくらいでしか興行できないですね」となったりします。

 ただし、全国500〜600スクリーンで上映できるほど、人気が出そうな映画の場合は別です。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)の場合、その前の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)の当たり方を見て、どの劇場も「やりたい」と手を挙げていたのですが、そこは配給会社のクロックワークスとカラーで、戦略的に絞って興行を行っていたと思います。

――『茄子 アンダルシアの夏』は46分という中編にも関わらず、120〜130スクリーンという規模で公開というのは異例のことだったと思います。例えば、3DCGの長編を日本で作るのは現場としては難しいですが、中編のものが上映できるようになればやれることがいろいろ増えると思うのですが、中編作品の可能性についてどうお考えですか?

豊島 今、ハリウッド映画を中心として、1本当たりの上映時間が長くなりつつあって、2時間以上が当たり前になってしまっています。配給会社が提供する映画が長くなっていく中、10スクリーンくらいのシネマコンプレックスを抱えている興行会社が何を考えているかというと、非映画コンテンツ(ODS、Other Digital Stuff)の上映です。

 「そんな業界なのか」とみなさんお考えになると思うのですが、興行会社のシートの稼働率は12〜13%くらいなんですね。つまり、残りの90%弱は空席で上映しているわけなんです。なぜ興行会社が、これから非映画コンテンツに力を入れてやっていこうとしているかというと、稼働率10%強しかなしえない映画だけに頼らずに、例えばスポーツイベントやAKB48のコンサートを中継するなどして、稼働率を高めたいと考えているからなんです。

 そんな中で私が思うのは、興行会社には「短い時間で勝負するコンテンツをどんどん上映したい」「かけるものを多様化したい」というニーズが生まれていることです。そういう状況下、中編映画も強い作品であればありうるのではないかなと思っています。アスミック・エースでは『茄子 アンダルシアの夏』を配給しましたが、少し忘れかけていたので、「そういうビジネスチャンスがこれからあるのではないか」と再認識しました。

櫻井 そもそもみなさん、映画館に行く2時間って確保できるんですかね。みなさんお忙しくて、行けないこともあるのではないでしょうか。

豊島 昔からそうですが、ハリウッドの会社中心に公開2週間前から公開1週間後までの3週間くらいはテレビCMをたくさん打つのですが、それからはあまりやらないんですね。すると、「始まったことは分かるけど、いつ終わるかは分からない。行こうと思ったけど、いつの間にか終わってしまった映画って多いんだよね」と、私も業界とは関係ない知り合いからよく聞きます。

 映画館で映画を見るハードルって結構高いと思うんですよね。わざわざこっちから行かないといけないし、料金も高い。ちなみに成人男性の料金は一般的には1800円ですが、今の映画館の平均入場料はだいたい1200円台前半、2010年は1266円でした。男性は1800円という意識があると思うのですが、レディースデイや夫婦50割引などを利用すると1人1000円で見られるからです。

 みなさんそういうのを多分知らないと思うんですよね。だから、「映画は料金が高いし、決められた時間に行かないといけないし」ということで、ヘビーユーザーではない方にとってはハードルが高くなっていると思います。今の映画業界は年に10〜20本も見に行っているようなヘビーユーザーに支えられています。

 日本の人口は1億2000万人ほどですが、映画の参加人口は2500万〜4000万人と推計されています。映画館に一生足を踏み入れない人も多いので、その辺はまだまだ伸びしろがあると考えています。映画業界人としては、「映画料金は安くなっている」とか「身近な楽しい娯楽なんだ」ということをもっとアピールしないといけないと思っています。

櫻井 最後にこういう会社の人と一緒にやりたいとかメッセージなどがあれば。

豊島 先ほども申し上げたように、これからはクリエイター、またはクリエイターに近い人が直接商売できる環境になっていくことは間違いないと思います。そして、私たちはそういうクリエイター、またはクリエイターに近い人に今以上に頭を下げまくらないとなかなか仕事ができないような世界になってくると、私自身は思っています。

 携帯電話でソーシャルゲームを提供するような業界の方々ともお会いしているのですが、私たちやテレビ局のような旧態依然としたスタイルの会社と違って、ビジネスのスピードが速いです。ひらめいたことはすぐに実行して、1週間後には商品化されているほどです。映画は企画してから世に出すまでに1年以上かかったりもするので、ちょっとまずいなと思っています。私たちとしても、そのスピード感に負けないように、仕事をしていきたいと思っています。

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