2つの老舗メゾンが実現した究極のボトルクーラーとは?(2/4 ページ)

» 2011年05月30日 22時49分 公開
[松浦明,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

――クリュッグと玉川堂との出会い、このマッチングはどのようにして生まれたのでしょうか?

谷川じゅんじ このプロジェクトが立ち上がった際、「究極のボトルクーラーを作る」というテーマはとても明快だったのですが、そこから先は正直何も決まっていなかったんです。分かっていたことは、まず「水も氷も使わない保冷性が必要であること」、そして「クリュッグのなで肩のボトルの美しさを最大限生かすことができるクーラーであること」、もう1つは「今まで見たことがない唯一無二のデザインであること」でした。

 そこから、ありとあらゆる素材の検証が始まり、さまざまな可能性を突き詰めた結果、鎚起銅器という伝統工芸に至り、“究極”をテーマに優れた銅器の伝統を持つことでしられる燕三条に行き着き、そこからさらにクリュッグの哲学を共有できるメゾン探しの旅が始まったんです。

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 2010年8月のキックオフを考えると非常にコンパクトな時間ではありますが、非常に密度の濃い期間を経てようやくたどり着いたのが玉川堂でした。歴史や技術を人から人へと伝承されていったという点においても、クリュッグのシャンパンづくりにおけるこだわりの肝となる部分をすべて共有できる。すべてにおいて申し分のないパーフェクトマッチでした。実際に玉川堂にお会いしてからも、さらにそこから本当に実現可能かどうかという具体的な検証を重ねなくてはいけませんでしたから、8月〜12月までの月日はお互いすべてのクリエーションと情熱をぶつけあって、本当に密度の濃い時間だったと感じています。

――具体的にはどのように製作行程を経て完成したのでしょうか? 玉川堂の鎚起銅器の特徴も含めてお聞かせください

玉川基行 こちらのボトルクーラーはもともとは一枚の銅板でした。鎚起銅器づくりの基本的な行程は、さまざまな道具を用いて金槌で叩きながら形状を作っていくのですが、ポイントは伸ばすのではなく縮めていくという点です。200種以上の道具があるのですが、それらに銅版をひっかけて叩き、徐々に形状を作っていきます。取っ手や注ぎ口まですべて継ぎ目なく仕上げるるのですが、そこにはそれ相応の技術が必要です。また、叩き縮めていくことで当然表面にはシワが寄るのですが、そのシワを重ねないように打っていくとだんだん立体的になっていくわけです。

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 鎚起銅器のもう1つの特徴はその着色製法にあります。銅器の作り手は世界各地にさまざま存在しますが、この着色法はどこにもない玉川堂ならではの技術です。今回製作したボトルクーラーは、シャンパンカラーをイメージして着色したのですが、外側は表面に錫(すず)を塗って低温で焼き付け、独自の着色液の中に何度も漬け込むことで生まれた特別な金色です。内側は銅本来の色を生かしながら、こちらも独自の着色液の中に何度も漬け込むことで生まれたシャンパンゴールドに仕上げました。いずれも焼き付けの温度を間違えるとムラが生じてしまうので、大変繊細な作業になります。

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 着色には、ほかにも硫化カリウム液や緑青なども用いるのですが、要するに銅の表面を酸化(腐食)させることによって色を付けているのです。この銅器は、使い終わった後に乾拭きすることによって色合いが深まっていきます。ですから、長年使えば使うほど、色が深まって経年変化していく。熟成を楽しむことができるという点は、ワインやシャンパンとの共通項ではないかなと思います。

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