2つの老舗メゾンが実現した究極のボトルクーラーとは?(3/4 ページ)

» 2011年05月30日 22時49分 公開
[松浦明,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

――今回のこのボトルクーラーの形について、特筆すべき点はどの部分でしょうか?

玉川基行 鎚起の普段の作業では銅を叩いて丸くしていくのですが、これは逆に反っていますよね? 実はこのように反らせた形状は私たちにとっても新しい挑戦だったのです。そのため、今回のボトルクーラーづくりは、新たにこのフォルムを生み出すための道具作りから始まりました。

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 玉川堂では創業した200年前から、新しい形状に挑戦するその度に新しい道具を作ってきたのですが、昔からその道具づくりもすべてゼロから手がけていまして、昔の道具も新しい道具もどちらも併用して製作しています。

――製作にはどれだけの時間がかかっているのでしょうか?

玉川基行 1つだけ製作するのと、まとめて製作するのとではかかる日数も違ってくるのですが、だいたい1つが完成するまでに2〜3日はかかります。ちなみに、玉川堂は分業制ではなく、銅版を叩く作業から着色まで1人の職人が担当しますので、最低でもそれだけの日数が必要になります。

 伝統工芸は一般的には分業制で行われていることが多い中で、なぜ玉川堂がそうしないのか。分業制にしますと、物の心が分断されてしまうと考えているからです。職人は製品づくりだけでなく、実際にその商品を買われたお客さまの意見にも耳を傾けます。そうすることで、より良いものを生み出していこうという心をひとつひとつの製品に宿していくというのが私たちの基本的な考え方なのです。

――何人の職人がいらっしゃるのですか?

玉川基行 現在は15人の職人がいますが、このボトルクーラーは20〜30年修行を積んだ職人でないと作ることはできません。最初はぐい呑みなど小さいものからスタートするのですが、ステップアップするにはやはりそれなりの時間と鍛錬が必要になります。先ほどもお話したようにこのクーラーの形状は特殊ですから、玉川堂でもトップクラスの職人のみしか手がけることができません。

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――このフォルムが生まれるまでに、デザインとしての最終地点にいくまではどれくらいの時間を要したのでしょうか?

玉川基行 最初はまずデザイン画を出していただきまして、モチーフは「着物」でいくことは決まっていたのですが、そこから何十回も試作を繰り返しました。最初は着物の奥袂を重ね合わせた部分がもっと強調されたデザインだったのですが、試行錯誤を重ねた上で最終的には“奥袂の重ね”の部分を曲線で繋いだこのフォルムにたどりつきました。

――特にこだわった部分はどこでしょうか?

玉川基行 この口径の角度です。ボトルを取りやすい形でありながら、中の温度が一定に保てるという点でもちょうどよい角度なんです。とにかく、あらゆる検証とさまざまな計算を織り込んで、デザインだけではなく機能性にも優れたものを作りたかった。美しいデザインは、デザインと機能性を突き詰めていくことによって生まれていくものだと思っていますし、その考え方は私たちの物作りの理念でもあるので。

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