「転職で年収アップ!」はウソ?メディアとWebと人材と(2/3 ページ)

» 2011年06月01日 08時00分 公開
[中嶋 嘉祐,Business Media 誠]
誠ブログ

転職でパフォーマンスが落ちる理由

 「転職をすると、実は年収が下がることの方が多い」という話をさせてもらいました。転職をすると下がりがちなのは、年収だけではありません。発揮できるパフォーマンス、仕事で出せるアウトプットなどにもマイナスの影響があると思っています。

 しかも年収は下がるとは限りませんが、パフォーマンスなどはほぼ間違いなく下がるものだと私は考えています。

 エンジャパンが「転職は慎重に」というキャッチフレーズを使っていますが、「年収アップを狙って転職したい」という人だけではなく、「環境を変えて活躍したい」という人にも一度慎重に考えてもらいたいので、今回の記事を投稿しています。

 さて、パフォーマンスが下がる理由にもいろいろありますが、ざっと次のような要因が挙げられるのではないでしょうか。

  • 業務領域の変化
  • 所属企業の立ち位置の変化
  • 企業文化の変化
  • 上司や同僚との人間関係の変化

 それぞれの要因について簡単に説明していきましょう。

業務領域の変化

 これは分かりやすい話だと思いますが、転職すると担当する業務が変わってきます。職種自体を変えた場合はもちろんですが、同じ職種で転職したとしても、カバーする領域が変わることが多いのではないでしょうか。

 例えば営業職。前職では見込み客を獲得するマーケティング部門が優れていて、用意されたリストにただアプローチすればよかったのに、新しい職場では見込み客のリストを作ることが求められるかもしれません。その場合には電話でアポを取ったり、ダイレクトメールで見込み客を発掘したりといった業務まで必要になることも。電話アポに慣れていない人なら、短時間で相手の興味をどう喚起するか、不慣れなことに苦労するかもしれません。

所属企業の立ち位置の変化

 業界の中で1位の企業なのか2位の企業なのか、あるいはまったく名前の知られていないベンチャーなのか。所属する企業の立ち位置によって求められる能力は変わってきます。

 ここでも営業職を例に考えてみます。

 1位の企業であれば、相手担当者と良好な人間関係を築き、これまでの実績を説明し、自社製品への誇りや自信を持って強気の交渉で受注額を増やせるかもしれません。

 対して2位の企業になると、1位企業との違いを説明し、1位企業に対して顧客が感じている不満を解決する手段を考え、自社の優位性を認めてもらう必要があるでしょう。

 それがまったく名前の知られていないベンチャーになると、トライアルだからと限界まで価格を下げて、とにかく使ってもらうことも重要になります。さらに1位の企業でも2位の企業でも実現できない、まったくの新商品を開発するヒントを顧客との対話から収集し、商品開発までを考えなくては売り上げを伸ばせないかもしれません。

企業文化の変化

 その会社がどんなスタイルを是とするか、どんなタイプが評価されるか、という点も発揮できるパフォーマンスに影響を与える要因でしょう。ただ、これはプラスにもマイナスにも働く要因だと思います。

 スピード重視でとにかく行動することが求められる企業、失敗が許されない慎重な企業、人とのコミュニケーションやチームワークを重視する企業、成果だけ上げていればとやかく言われない企業などなど。転職先の会社がどんな人物であることを求めてくるかによって、仕事のスタイルも多かれ少なかれ変化を求められます。自分に合うスタイルならパフォーマンスは上がるでしょうが、合わないようならマイナスに働くことでしょう。

上司・同僚との人間関係の変化

 転職をすると同僚との人間関係もゼロから築き直さなくてはいけません。以前の会社では陰に日向に同僚からのサポートを得られていたのかもしれませんが、新しい会社ではサポートが得られないかもしれません。

 転職先の社員にとってあなたは新参者。新しい職場では慎重に人間関係を築いていかないと、他部署のキーマン、女性社員をたばねるお局様の心証を悪くしようものなら、いくら正論を説こうが、プロジェクトは前に進みません。

 人間関係は一朝一夕で築けるものではありませんから、よほど前職で人間関係を悪化させていたのではない限り、転職することは仕事上マイナスに働くことでしょう。

 また機会をあらためてまとめたいと思いますが、「もっと裁量が欲しい」「こんな仕事を任せてもらえるようになりたい」といった理由で転職を考えているようなら、転職せずに現職のまま上司と交渉して実現できる可能性も大いにあります。

 そもそも、実績を残していない段階で転職しても、相手企業があなたのことを今以上に評価してくれるとは思えません。「もっと活躍したい」というのが転職の理由なら、自分に至らぬ点がないか、現職のままで状況を打開できないか、慎重に考えてから転職活動を始めるべきではないでしょうか。