放射性物質の飛散や海洋汚染で、福島県以外にも大きな影響を与えている福島第一原発の事故。その長期化は避けられなくなっているが、足元の電力供給状況を鑑みて、事故後も多くの原子力発電所では運転が続けられている。
政府は新成長戦略実現会議でエネルギー戦略の見直し議論を行っているが、行政訴訟という方向からも原子力政策にストップをかけようという動きが生まれている。福島第一原発などの原子炉設置許可が法律の要求する最低基準を満たしていたかどうかを問う行政訴訟である。
事故後いち早く行政訴訟を起こしたのは江藤貴紀氏。江藤氏は昨年3月に東京大学法科大学院を卒業。5月に司法浪人として2度目の新司法試験の受験を控えている中、4月7日に訴状を提出。試験を終えた後の6月6日に日本外国特派員協会で会見を行った。江藤氏はどのような思いから訴訟するに至り、裁判ではどのようなことを根拠にしようとしているのだろうか。
江藤 私は福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、茨城県の東海(第二)発電所の3カ所の原子炉設置許可が違法であると主張して、国を訴えています。日本外国特派員協会で記者会見をしたいと思ったのは、日本の一般市民の中にも政府の誤った政策を弾劾するだけでなく、正当な抗議を行おうとする人間がいることを知っていただきたかったからです。
最初に、今回の訴訟を起こした私の動機について説明します。この大部分は、事故以降の日本政府の対応とマスメディアの報道についての不満に対してのものです。その次に、訴訟上の法律的な主張と裁判が日本に与える影響について、簡単に考えを述べさせていただきます。そして最後にみなさんと意見交換をしたいと思います。
3月11日以降の福島第一原発の事故が起きるまで、実は私は国の原子力発電政策に反対の立場をとってはいませんでした。もちろん、旧ソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の重大な事故については知っていました。
しかし、それは「当時のソビエトの秘密主義的な政治体制のもとで、政策が十分に吟味されずに決定されたことが原因である」と考えていました。「日本のような科学技術水準が高く、政治においてもアカウンタビリティ(説明責任)が課される、いわゆるデモクラシー(民主制)の体制を持っている国では、チェルノブイリのような深刻な事態は生じるわけがない」と考えていました。
恐らくですが、ここでお集まりのみなさんや多くの日本人と同じように、今年の3月11日までは日本における原子力発電の安全性を信じていたわけです。これは多少ナイーブな立場だったと言えるかもしれません。
確かに、日本国内でも原子力発電の危険性に警鐘を鳴らす方々はおられました。しかし、彼らの意見は私にとってあまり傾聴に値するものとは思えませんでした。なぜなら多くの場合、彼らは科学的根拠に基づいて意見を発しているというよりは、政治的なポジショントークとして原子力発電の危険性を強調してばかりいるように私には思えたからです。
言い換えると、原子力発電に反対する活動家の多くは、政府与党の政策であれば何であっても反対ばかり唱えている人々だったのです。彼らの多くは、1955年以降の日本政治における日本社会党や日本共産党の支持者に典型的な、政治的に言えば少数的グループでした。そして、原発反対派の多くは「科学的にリーズナブル(合理的)な意見を述べたい」というより、「政治的な活動をしたい」と思っていた。その人々は政府与党の政策を批判することが目的だったので、とにかくどんな理由でもいいから批判の根拠を探し出して、「政府の政策が間違っている」と述べる傾向があったと私は考えていました。
彼ら、昔から原子力発電の反対を唱えてきた人々によると、日米安全保障条約の締結と自衛隊の存在は憲法違反ですし、国連のPKO活動への自衛隊派遣もまた憲法違反ということですし、市場における規制の緩和は常に弱者を切り捨てる策で、国際経済における農業貿易の自由化は貧しい農村の軽視であって、消費税の導入はアッパークラスの優遇にほかならないので、許さないと結論付けられてきました。「このようにいつも現実性を無視して政治的意見を主張している人々の意見は、耳を傾ける価値のないものだ」と私は考えていたのです。
しかし残念なことに、「原子力発電の危険性については、彼ら政治的少数派の見解の方が正しかった」ということが3月11日以降の事故によって判明しました。日本における原子力発電の技術と人的な管理体制は稚拙なものでした。政治的に透明な過程で決定されてきたはずの原子力政策も、実のところ多くの利害関係者によるさかんなロビー活動でねじまげられてきていました。また、それを批判するべき報道機関の報道も、ふんだんに振りまかれるロビー費用によって正常に機能していないし、今もそうであることが判明しました。
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