ゲームビジネスでは、「満足をすればより高い価格を払う」という単純なマーケティング・モデルが通用しない。面白いゲームさえ提供すれば自然と収入が得られるわけではない。どんなに良いゲームであっても9割のユーザーが無料でしか使わないのが現状である。
筆者は以前、MMO(多人数参加)型のPCオンラインゲームを対象に、顧客満足度の研究をしていた。アンケート調査やログ解析をして、満足度の数値化を試みた。
ゲームの満足度を測定するためには、今までのマーケティング調査とは異なる方法が必要であった。通常の満足度調査では、商品を買って使用した後に、一度だけ聞けばよい。しかし、オンラインゲームに対する評価は日々変化する。熱中すれば満足度も高くなるし、飽きてくれば低下する。だから、何度も何度も聞かなければ実態がつかめないのである。
ユーザーの立場から考えてみよう。ゲームを続行するか否か、金を払うか否か、いくらなら払うのか。これらすべてがユーザーの判断に委ねられている。
当初MMOは月額料金制であったため、課金ストップがプレイ中止を意味した。そこで、いつ課金ストップするか判断することが、ユーザーの悩みどころであった。今は飽き始めているが、翌月には新イベントでまた盛り上がるかもしれない。そんな惰性と期待の狭間で、気持ちが揺れた。
やがて基本無料アイテム課金制度が主流になると、課金ストップがプレイ中止に直結しないようになったものの、今度はどれだけアイテム購入に小遣いを割くかが問題となった。筆者の場合、欲しい有料アイテムが出てくるとその都度、500円や1000円の小さな単位でゲームポイントを購入した。プレイ最中は金を使っている意識が薄かったが、翌月にクレジットカードの請求書が届いて、その明細が数ページに渡った時、さすがにまずいと我に返った。
このようにユーザーは常時、満足度レベルと支払金額についてシビアに考えている。こうした状況を反映するために、ユーザーひとりひとりについて、ゲームを開始してから現在までの満足度の推移を表そうと思った。横軸に時間、縦軸に満足度をプロットした、顧客満足度曲線というものを作った。これまでは、「満足度が曲線を描く」という発想自体がなかったので、実測をして曲線を推定する調査を行った。
次図がそのイメージ図である。満足度は急速に最高値に達すると、その後は緩やかに下降していく。下降の度合いが低いゲームは、長続きする長寿ゲームである。反対にすぐに冷めてしまうゲームは、急な山を描く短期集中型のゲームとなる。
満足度曲線に支払い金額を書き加えると、定額料金やアイテム課金の違いを図に示すことができる。図で塗りつぶしてあるところが支払い金額である。一度の支払い金額が多ければ、縦に長く塗りつぶされる。少額を長く支払っている場合は、横に長く塗りつぶされる。この面積は1人のユーザーが支払った合計額であるので、その最大化を考えることがマネタイズ施策となる。
アイテム課金の良さは、ゲームの面白さが分からない間は無料で利用でき、熱中して満足度が上がるとユーザーが自発的に有料アイテムを購入することにある。つまり、満足度に応じて客単価が柔軟に変動することが長所であり、山のピークの満足度を収益化できない定額制よりも面積を広げる余地が広がる。
もちろん、すべてのゲームについてアイテム課金が最適というわけではない。満足度曲線を描く意味は、その形状を見ながら適する料金制度を考えることにある。
ただし、この図には難点がある。満足度とマネタイズの関係をシンプルに示す点は良いのだが、ゲームに対する満足度のすべてを表しきれないのである。満足度と一口にいっても、ゲームへの熱中なのか、ゲーム友達との関係なのか、あるいは運営サービスに対する評価なのか、さまざまな側面がある。
また、無料なら許せる水準と、有料利用で求める水準も異なるだろう。先に述べた、アイテム購入後にかえってやる気が失せる“失速現象”は、支払いをすることで元の満足度曲線が変形したからかもしれない。ここまでの影響を盛り込むと、もっと複雑なモデルを想定しなければならず、試行錯誤を繰り返した。
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