安くて簡単なエネルギー――地域に供給する“熱”とは松田雅央の時事日想(1/4 ページ)

» 2011年06月28日 11時33分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 今後、日本のエネルギー政策はダイナミックな変革を迫られる。原発のあり方が根本的に問われる今、省エネや代替エネルギーは文字通り待ったなしの課題。短期的にはこの夏を乗り切る節電、中・長期的にはさらなる省エネ技術や再生可能エネルギー開発が重要となる。

 しかしながら日本の動向を海外からみていると、大きく欠けた部分のあることに気付く。電力については議論が多いのに、それと対をなす熱利用の話が抜け落ちているのだ。例えば火力発電所は多くのエネルギーを廃熱として捨てているが、これを有効利用すべきではないか。実は、最も安上がりで簡単に利用できる再生可能エネルギーは廃熱という言い方さえできる。

 今回はドイツのエネルギー政策のキーワードとなっている熱利用、特に地域熱供給とコジェネレーションにスポットを当てたい。

40%から90%へ

 火力発電所で石炭・ガス・重油といった1次エネルギーを燃やして発電すると、どうしても約6割のエネルギーを廃熱として捨てなければならない。自家消費分はたかがしれているし、近隣に工場や温水プールがあれば廃熱を利用できるが条件はかなり限られる。

 そこでコジェネレーション(熱電併給)が注目を集めている。発電しながら熱を有効利用するコジェネレーションは、大規模なものは大型火力発電所、中規模には地域分散型のバイオマス・コジェネレーション施設、小規模になれば集合住宅や事業所用のミニ・コジェネレーション設備までバラエティーに富む。

 それらを統合すると、今度は大規模な熱供給のネットワークが構築できる。火力発電所のコジェネレーションに加え、ゴミ焼却場やコンビナートの廃熱を統合管理し、温水として市街地や工場地帯に循環させるエネルギーインフラが地域熱供給だ。大規模な地域熱供給になれば数十万の人口を抱える都市をカバーし、木材チップを利用する中規模コジェネレーション施設ならば隣接する住宅地や小さな村で活用できる。コジェネレーションや地域熱供給により90%のエネルギー利用が可能となり、大きなCO2排出削減効果が得られる。

 コジェネレーションと地域熱供給は省エネの核心的技術として重点整備され、再生可能エネルギーと同等に助成対象となっている。

中央集中型の電力供給(上)から、中規模コジェネレーション施設を活用する地域分散型の電力・熱供給(下)へ(出典:カールスルーエ市エネルギー・水道公社)

図の解説

上:大規模発電所による通常の電力供給1次エネルギー(石油・ガス・石炭・原子力・バイオマスなど)を使って発電すると58%が廃熱、2%が送電ロスで失われる。消費者に供給できるのは40%のみ。

下:地域分散型のコジェネレーション施設によるエネルギー供給

1次エネルギー(理想はバイオマス)を使って発電し、電力として30%、熱も60%を消費者に供給できる。大型火力発電所に代わり、バイオマスを使用する中型コジェネレーション施設を需要地の近くに数十ヶ所建設するればエネルギーの利用効率は格段にアップする。


       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.