攻める! 「ウィルキンソン ジンジャエール」の深謀遠慮それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年06月29日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ウィルキンソンが狙うミキサードリンクとしての棚

Creative commons. Some rights reserved. Photo by kawataso

 コンビニエンスストアの飲料の棚を見ると、ここ数年で変化を感じないだろうか。2007年3月27日に発売された「ペプシネックス」を皮切りに「カロリーゼロ炭酸飲料」ブームがわき起こった。しかし、今日、棚を見るとどうだろう。飲料のラインアップに最もコンサバティブなコンビニチェーンは、筆者はセブン-イレブンだと思うのだが、そこにあるカロリーゼロ炭酸飲料は定番の「ペプシネックス」「コカコーラゼロ」「C.C.レモンZERO」くらいだろう。つまり、一過性のブームで登場した商品の多くは消え去っている。

 ブームに遅れて乗った商品と見られたくない。そんなアサヒ飲料の意志が感じられる。

 アサヒ飲料はかつて、「大人炭酸シリーズ」として第1弾「アサヒ グリーンコーラ」を発売した。CMに出ないことで有名な大ロックスターの氷室京介を起用し、大きな話題をさらった。続く第2弾ではジンジャーエール風の「アサヒ ドライスパークリング」を発売した。しかし、これは第1弾ほどの話題にはならなかった。「アサヒ ドライスパークリング」は「ハードでドライな刺激・大人の辛口炭酸」であると同時に「カロリーゼロ・糖質ゼロ」をウリにした。その商品との同一視を避けたいという意向もあるのだろう。

 アサヒ飲料の「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」にかける意気込みは本気だ。

 ニュースリリースを見ると、前出の「アサヒ ドライスパークリング」の販売目標数は30万ケースであった。その目標数字は、サントリー食品が昨年まで毎年、ブランドとしての話題喚起のために発売していた、「ペプシしそ」や「ペプシバオバブ」といった「変わり種ペプシ」とほぼ同数である。しかし、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」の目標はおよそ200万ケース(NRをみると、目標「500万箱(ブランド全体)」とあるので、「2010年の販売数量は2007年比181%(291万箱)と大幅に拡大」との記述からすると、ペットボトルの目標値は約200万ケース)だ。

 アサヒ飲料はどこで勝負をかけるのか。

 飲料業界トップの日本コカ・コーラの力の源泉は、自販機の保有台数だ。日本に290万台あるといわれているうちの98万台を占める。サントリーは44万台。アサヒ飲料は大きく遅れて23万台である。今日、日本の自販機は完全に飽和状態にある。もはや好立地に設置することは難しい。しかし、自由に商品を展開でき、定価販売できて利益率が高いといううま味も捨てがたい。悩ましい選択である。

 「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」はコンビニで勝負をかけるはずだ。自販機の台数で劣後しているからだけではない。理由がもう1つある。それは、コンビニの店内には飲料とアルコールが併売されているからだ。

 実は、商品パッケージには「ゼロ」の表示が目立たない代わりに、裏面にしっかりと「割り材としても」と書かれている。何も「モスコミュール」「ジンバック」「ボストンクーラー」などの「オシャレにカクテルを作ろう!」と言っているワケではない。コンビニで安く手に入る「ホワイトリカー(焼酎甲類)」を割るだけでいい。もしくは、アルコール度数が8%以上の「ストロング系チューハイ」を割って軽くしてもいい。そんな飲み方を密かに推奨しているのだ。

 アサヒ飲料のグループ会社であるアサヒビールには自社のウィスキー「ブラックニッカ」を使った缶入りの「ブラックニッカクリアハイボール」がある。しかし、ハイボールブームの火付け役であるサントリーの後塵を拝した状態であるのは否めない。世の中はビールのしっかりした飲み応えよりも、スッキリ系のハイボールやカクテル、チューハイがブームであるのは間違いない。その流れにしっかり乗りたいという意図が「割り材としても」というひと言には込められているのである。自販機で購入して、家に持って帰ってカクテルを作るという消費者行動は考えがたい。ゆえに、コンビニが主戦場なのである。

 飲料がコンビニの棚に並ぶには、2段階のハードルがある。チェーン本部が扱いを決めることと、フランチャイズのオーナーが本部に発注することだ。初回ロットはメーカーと握った本部の押しと、メーカーがマージン率を通常より1割ほど高く設定することもあり、店頭に多めに並ぶ。事実、6月24日付日経MJに掲載された商品ヒットチャートでは、初登場で6位に入っている。

 第2回発注分から通常のマージン率になるので、そこからが本当の勝負だ。今後、どのように健闘していくかウォッチしてみよう。まずは、その辛口を楽しみながら。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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