SNSという「人のネットワーク」が地球を覆う――脳とコンピュータ遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/3 ページ)

» 2011年06月29日 12時15分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]

脳の世界とコンピュータの世界が近づいている?

 このコラムでも以前触れたが、2010年1月刊行の『別冊アスキー』で、脳の研究者である池谷裕二さんにインタビューさせていただいたことがある。インタビューをお願いしたきっかけは、『複雑な脳、単純な「私」』(朝日出版社刊)を読んで、どうも書かれていることとコンピュータとがどこかでつながっているような気がしたからだ。

 まさに、「脳の世界とコンピューターの世界が近づいている」という記事なのだが、その記事の後半、池谷さんが「ちょっと言いたいことがあるんですけど」と切り出してくる部分があった。「未来がなぜ予測できないか」というお話をされるのだが、これが脳のメカニズムの話と関係してくるというお話である。ここはシロウトが深入りするところではないのだが、1点だけ「ガーン、やっぱりそうかぁ」という部分があった。

 脳は、はじめは「脳幹」という中央コントロールセンターのようなところが、全体を支配していたそうだ。は虫類や鳥類、両生類などでは脳幹が生命をつかさどっているし、情動というものもそこで動いている。それが、進化の過程で脳は外側にどんどん増築する感じで大きくなっていった。そしてほ乳類では、いちばん外側の大脳皮質が大きくなった。

 ネズミの大脳皮質は広げても100円玉くらいの大きさしかないのに、人間の大脳皮質はとても大きくなっている。このいちばん新しく外側にできた、新興住宅地というか埋め立て地のようなところで、ある事件が起こる。サルと人間の間で、「なぜこんなに違うのか?」というくらいの変化が起きたというのだ。

 「大脳皮質が大きくなりすぎて、数的に脳幹よりも多くなっちゃったんですよ。そのとき、水から一気に氷になるかのような相転移が起きました。今までは脳幹が脳を全部支配下に置いていたのが、自律的に動くようになった大脳皮質が、脳幹を制御する時代になったんです。そして、それが起こっているのは、どうも人間だけらしいのです」(池谷氏)

サルから人間に至る脳の相転移

スタンドアロンからメインフレーム、そしてインターネットへ

 これ、コンピュータ業界に少し長い人なら、何となく連想することがあると思う。コンピュータは、1940年代にはネットワークというものがなく、たった1台で動いていた(スタンドアローン)。そして、コンピュータのハードウェアもソフトウェアも進化するに従って巨大化していく。やがて、テレコミュニケーション技術が生まれ、ホストコンピュータに端末がぶらさがるようになる。

 銀行システムでいえば、本社にメインフレームの大型機がドンとあり、それに支社のシステムがぶら下がるという、きれいな中央コントロール構造ができあがる。もちろん、後にインターネットに発展するUNIXのネットワークはあったし、1980年代にも公衆パケット網などができてくるという動きもあった。しかし世の中全体では、情報システムとは中央コントロール的に管理するものという考えが一般的だったといえる(今もそうだというべきだが)。

 ところが1990年代にかけて、世界中でPCやワークステーションが、毎年何千万台と作られていくようになった。そして、IP(インターネットプロトコル)がそれらをつないでいき、ついには中央コントロール的な世界を脱するところまできているのではないかと思える。人間の脳の中で大脳皮質が起こした革命(相転移)のようなことが、もうコンピュータの世界でも起きておかしくないように思えてしまう。

 それが、今のネットなのか? あるいは、今のネットは相転移のギリギリのところまでは来ているけれど、まだ起きていないのか――記事ではまだ起きていないのだろう、という話であった。

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