「原発解散」……これは愚だ藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年07月11日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 もちろん首相には議会を解散する権利がある。それは憲法で保証されている。いまが平時なら解散もよかろう。しかしいまは東日本大震災からいかに早く立ち直るのかということが最も重大かつ緊急の課題だ。お盆までには望む人は仮設住宅に入れるようにするという約束も無理のようだ。被災地にはまだがれきの山が積んだままだし、壊れた建物もそのままだ。もう一度そこに建て直すのか、それとも新たな土地に移り住むのか。以前の土地はどうするのか。その資金はどうするのか。それも決まっていない。仮設住宅はあくまでも仮設にすぎない。本格的な復興のためには、都市計画そのものが必要なのである。

 そのためのビジョンや法律をつくるために国会できちんとした議論をしなければならないのに、国会は時間を浪費している。通常国会を延長してほぼ2週間、国会は開店休業だった。菅首相は「行政はその間もずっとやっていた」と答弁していたが、それはあまりにもピントが外れている。新しい法律が必要なときに国会が機能していなければ、それは時間の無駄遣いである。行政府だけで何とかなる話ではない。自民党から人を引き抜いて国会を混乱させた総理の罪は重いのである。

 その上に解散などすれば、さらに時間が空費される。被災地に集中しなければならないというのに、議員の力は分散される。まして民主党には2009年の「追い風」で当選した議員が多い。今回は逆風である。選挙区で必死に運動しなければならない。そうなったら本来の役割など果たせない。被災地の中には、いまだに選挙ができる状況になっていないところもある。

 100歩譲って総理が本気で原発問題を考えているとしても、だからといって原発を争点に選挙するのは拙速に過ぎるとも思う。将来的に原子力を縮小していくにせよ、どのようにソフトランディングさせるか、それが日本の産業にどのような影響を及ぼすか、もっと議論も理解も必要だ。いま単純に選挙すれば、原発を即時撤廃せよというような過激な発言ばかりが脚光を浴びることにもなりかねない。それは原子力にまつわる他の問題(放射性廃棄物の処理や使用済み核燃料の処理)から目を背けさせる可能性もある。

 それに、エネルギー政策をどうするかは喫緊の課題ではない。再生可能エネルギーを増やすと言っても、それほど簡単ではない。もちろん国民の関心が高いうちに、さまざまなアイディアを議論することはすぐに始めればいいと思う。1年じっくり議論してからでも決して遅くはないのである。

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