Like No Other――ほかにはないソニーらしさを探して郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2011年07月21日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

ソツのない決算

 2010年度連結通期業績を見ると、売上高は前年度比0.5%減の7兆1812億円、営業利益は同6倍以上の1998億円、純損益は税引当金で赤字になったが、震災の影響を振り払う2期ぶりの好決算となった。

 ビジネス別の売上高構成では、全体の5割を占めるコンスーマー・プロフェッショナル&デバイス(CPD)の売上増と利益増が効いた。液晶テレビや液晶デバイス、そして半導体センサが主役。地デジ化の追い風とコストダウンが要因だろう。

 ネットワークプロダクツ&サービス(NPS)では、価格を下げたプレステ3の増収、3Dソフト売上増、PCの販売増で前期の赤字から黒字へ転換。この部門もコスト改善効果が見え隠れ。映画と音楽部門ではマイケル・ジャクソン追悼効果が薄れ、音楽パッケージ市場の縮小(CD売れ行き不振)もあり、コストダウンでしのいだ。

ビジネス別売上高構成比(出典:ソニー)

 営業利益・損失の図から同社の利益構造を見よう。CPDとNPSが水面下から浮上、映画と音楽で微減・微増。実は利益の6割は金融部門からだ(前期比3割ダウンとはいえ)。

 この決算に「ソニーらしさ」を探しても、PSソフトのヒットと高機能携帯に特化して浮上したソニー・エリクソンくらい。実際、人員削減と非収益部門の整理によるコストダウンが大きい。ひと言で言えば、大企業のソツのない決算である。

セグメント別売上利益増減(出典:ソニー)

ソニーサイクルの秘密

 ところでソニーピクチャーズの今夏公開映画の目玉は『ザ・ズーキーパー』。動物園の飼育係が「こんな仕事をしていては恋に出会えない」と思って辞めようするのだが、彼を好きな動物たちが「喋り出して」何とか止めようとする。これは面白そう。

『ザ・ズーキーパー』(出典:Yahoo!映画)

 精密電機メーカーだったソニーが、なぜ映画製作を? 分かるようで分からないこの多角化に1990年代躍進の秘密があった(コロンビア映画の買収は1989年)。

 ソニーは革新的なハードウエアを創出し、それを楽しむコンテンツで拡張してきた。ウォークマンで音楽を持ち出させ、ハンディカムは家族の姿を永遠にし、ブルーレイにより家庭に映画館を作った。ハードと娯楽を一体提供するビジネスモデル、それは「ソニーサイクル」とも言えるものだ。

 映画事業を例に取ると「作品製作→公開→ソフト販売→ライセンス販売」のサイクルに、巧みにブルーレイや液晶テレビなどハードを入れて収益を上げる。1968年にCBSソニーで始めた音楽でも「音楽製作→発売→ヒット」というアーティスト育成サイクルに魅力的なハードを組み込んで、ソフト&ハードの供給市場を創ってきた。

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