崩落を想定、天井も軽い方がいい――日本科学未来館

» 2011年08月17日 11時50分 公開
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 目を少し上に向けてみよう。部屋の中にいれば、天井が見える。その天井が落ちてきたら危ない。そこで天井を補強して落ちないようにするが、そのアプローチには限界がある。それではと、落ちてきても安全な天井を作ろうと考えた人がいた。その発想は安全だけでなく、環境負荷の低減にもつながる。

 日本科学未来館は、東日本大震災で落下した天井の復旧にあたり、従来の石こうボードではなく、グラスファイバーと樹脂とでできた膜を採用した。

 一般的な石こうボードは1平方メートルあたり約16キロあるが、この膜は0.4キロと40分の1の軽さだ。この軽さのため地震の揺れの影響を受けにくく、落下する可能性が減る。仮に落ちてもふわりとゆっくり落ちるため安全性が高い(出所:2011年6月29日J-CASTニュース)。

 今回の膜天井の採用は、安全性の追求からだが、軽さの追求は環境経営にもつながる。今回は石こうボードと、グラスファイバーおよび樹脂との比較なので一概には言えないが、重量が軽いということは、それだけ使用している資源が少ないということだ。確実に言えるのは、軽ければ軽いほど、その運送や取り扱いにおけるエネルギーが少なくて済む。当然、運送コストも下がる。

1636校の天井が崩落

 文部科学省が6月に発表したまとめによると、東日本大震災で天井が落下した公立学校はその時点で判明しているだけでも1636校に達していた。日本科学未来館は、高さ28メートルのホールの天井535平方メートルの内、約1割が大震災で落下した。いずれの建物も当然、耐震基準を満たしている。

 過去の地震でも天井落下の被害はあり、国土交通省や文部科学省は対策のガイドラインを作ってきたが、その方向は耐震基準を強化したり、天井の保持材料を補強したりするといったものだ。

 今回、日本科学未来館の膜天井の採用を支えてきた東京大学生産技術研究所の川口健一教授はこうした事態を受け、「落下対策を耐震事業に位置付けるのは疑問だ。天井材をなくしたり、軽く柔らかい素材に代えたりと発想の転換が必要だ」(出所:2011年6月30日 日本経済新聞)と述べている。

 リスクを、特に大災害や複合災害のようなめったにおこらないものの甚大な被害をもたらすクライシスをあらかじめ想定することの難しさを、私たちは東日本大震災で目の当たりにした。また、そうしたリスクやクライシスをすべて未然に防ごうとすることはコスト高になってしまい非現実であることも知られている。

 つまり、川口教授の言うように、ある段階でそうした事象が起こることを受け入れ、それが起こった後の被害を極小化するという発想も必要である。軽さを追求するということが安全だけでなく、環境負荷の低減にもつながるということになれば、そうした発想の転換もしやすくなるのではないか。

 物流費用も含めたトータルコストかどうかは確認が取れないが、現時点では、膜天井は価格が石こうボードよりも価格が1.5〜2倍と割高で釧路空港や静岡県立水泳場など一部でしか実現していない。しかし、膜天井が普及し、量産が可能になればコストは下がるだろう。天井にも軽さを追求するという発想が環境経営だけでなく安全面からも有効だ。(中ノ森清訓)

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