ドイツ生まれの炭酸水は日本市場を制するか?――ゲロルシュタイナーの機会と課題それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年08月31日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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しかし「のどごし」だけでは機会損失が発生する……

 古林氏の言う「のどごし」ニーズは確かに市場に存在し、ゲロルシュタイナーはそれに応えることができる。端的に考えれば、このニーズに向かって適切にマーケティング施策を打ち、一気に市場拡大、シェア獲得へ……となるのだろうが、「でも」と、同・ブランド戦略室の長谷川聡氏は、ことがそう単純ではないことを説明する。

 ゲロルシュタイナーの特性は「のどごし」だけではなく、ほかにも多くの優れた特性があり、多様なニーズ開拓が可能、というのである。例えば、「硬度1310ミリグラム(1リットルあたり) ph値6.5」という硬度は「スリミングウオーター」としての特性も持っており、健康志向の高い女性の支持を集めている。また、「カルシウム36ミリグラム、マグネシウム10ミリグラム(100ミリリットルあたり)」と理想的な配分、量で天然ミネラルを含有する特性は、妊娠中の女性に最適であり、爽快なのどごしと相まって、つわりが出る時期に飲みたい飲料のナンバー1ともなっている。

 もちろん、主要販路であるコンビニエンスストアの主客層である男性の支持も高く、非アルコール飲用層からは「アルコール代わり」として、アルコール飲用層からは「お酒を飲んだ後に」というようなシーンで愛用されているという。

 驚くべきは、リピート率の高さである。実に飲用者の81%が再購入をしているという。その理由は、「天然炭酸水だから」とミネラルの含有などが支持され、続いて「爽快な味わいが楽しめるから」と、強めの炭酸が支持されている。

 これら特性、数値をサッポロ飲料、古林氏や長谷川氏の立場から眺めると、「『のどごし』ニーズに絞った訴求では、大きな機会損失を発生させてしまう」という悩みがリアルに感じられるのではないだろうか。

 サッポロ飲料はこうした多様な消費者ニーズに対し、ゲロルシュタイナーの特性のどこかをフォーカスして訴求するのではなく、各種飲用シーンの提案を行う戦略をとっている。例えば、「目覚めの一杯に」「食事とともに」「お風呂上がりに」「スポーツに」「リフレッシュに」「就寝前に」などだ。ソーシャルメディアでの口コミ喚起など、コストをかけない施策を多く打つなど多々工夫をしているが、しかし結果として、マーケティング費用が散逸してしまう感は否めない。さて、この商品、みなさんだったら、どう売っていかれるだろうか?

 フィリップ・コトラーのマーケティング理論の中核をなすのは「STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)」である。大量生産・大量消費の時代は誰もが同じモノを欲しがり、むしろ人と同じモノを所有することに喜びを覚えた。

 しかし、市場が成熟し、消費は高度化した。ことに、米国のブラックマンデー、日本のバブル経済崩壊や、近くはリーマンショックなどの経済環境悪化の中、消費者は賢くなり、自らの「買う理由=KBF(Key Buying Factor)」をしっかり見極めるようになった。つまり、コトラーのSTP理論は消費者のニーズを見極め、ターゲットを的確に絞り、そのターゲットのKBFに合致するようなポジショニングを明確に提示することで顧客化を図ることを旨としている。

 ところがさらに、今日の消費者像は価値観が多様化し、多面性があり、状況による変化も激しい。対象とする消費者像を細かく規定しようとすればするほど、狙える市場が小さくなってしまう矛盾に直面する。従って、従来のSTP理論ですらとらえきれないと「ポストモダンマーケティング」がアンチテーゼを行っている。

 特に商品の価値を自ら評価し、新たな用い方などを創造する消費者を「アクティブコンシューマー」と定義している。サッポロ飲料のゲロルシュタイナーに対する販売戦略は、このあたりにヒントがありそうに筆者は思うがいかがだろうか。

 「水は方円の器に随う」と中国の思想家・韓非子は記した。人は交友・環境次第で善悪のいずれにもなるという喩えである。このドイツ生まれの天然炭酸水を消費者はどのように今後扱っていくのだろうか。ゲロルシュタイナーはドイツ西部のアイフェル火山麓で、雨水が長い年月をかけて磨いたものだという。今度は日本の消費者に商品として磨くことが委ねられたのだ。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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