8月、市場の混乱は何を意味していたのか藤田正美の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年09月05日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 野田新首相が誕生した。BBCなどは「5年間で6人目の首相」と何度も言うので、世界中の人々は「ミスター・ノダ」の名前を覚える気にもなれないかもしれない。とはいえ、新首相が率いるのは何と言っても世界第3位の経済大国である。そして大震災に襲われて、世界のサプライチェーンを揺るがしたほど重要な国だ。「泥鰌(どじょう)」とか「泥くさい」とか日本人にしか分からない話だけではなく、外国に向けても日本の方針を早くきちんと説明したほうがいい。

 何せ日本は、ある意味で世界の先進国経済の先頭を走っているからだ。バブルが弾けて慢性的な需要不足でデフレに悩み、高齢化が進み、かつ人口が減る。これは多かれ少なかれ先進国にある程度共通した姿である。だからこそ、日本の新首相は財政再建、社会保障の維持、それに復旧・復興をどのような時間軸の中で成し遂げるのかをある程度の具体性をもって示す必要がある。

 一方、世界経済は不透明さを増している。英フィナンシャルタイムズ紙のチーフ経済コメンテーター、マーチン・ウルフ氏は、8月30日付けの「経済大縮小と闘う」と題するコラムで世界経済の状況を分析してみせた(参照リンク)。その内容をかいつまんで以下に紹介する。

市場の混乱

 この8月の市場の混乱は何を意味していたのか。私は3点あると思う。第一は、借金を背負った先進国はまだ非常に不安定な状況にあること。第二に、この困難な状況を政治が打開できる見込みはほとんどないと投資家が考えていること。第三は、不透明感が高まっているような状況では、投資家は最もリスクが小さい資産を選好するものだということ。例えば格付けの高い国の国債、または金である。デフレを懸念する投資家は国債を買い、インフレを懸念する投資家は金を買う。どちらとも決められない場合は、両方買う。しかし長期投資のリスクをとろうとする投資家や企業はほとんどいない。

 これが、ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所のカーメン・ラインハート氏やハーバード大学のケネス・ロゴフが言う「第二の経済大縮小」(1930年代の世界大恐慌が最初である)の世界だ。あまりに終末論的な言い方を好まない人は、「日本病」と呼んでもいいかもしれない。

 いま世界の先進国経済は「二番底」に陥るリスクがあるのか、多くの人がそう尋ねる。私の答えは「ノー」だ。なぜなら「一番底」がまだ終わっていないと考えるからだ。問題は、この景気後退あるいは「経済縮小」がどの程度深刻でどのぐらい続くかである。つまり、先進国6カ国(米国、日本、英国、ドイツ、イタリア、フランス)のうち、今年第2四半期までに金融危機前の2008年の水準まで回復した国はない。米国とドイツはかなり近づいている。それにフランスが続く。しかし英国、イタリア、日本はまだはるかに及ばない。

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