8月、市場の混乱は何を意味していたのか藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年09月05日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 景気後退とは「経済活動が経済全般にわたって落ち込み、その状態が数カ月続くこと」と定義されている。これは出荷額の変化率に着目したもので絶対レベルとは違う。通常なら変化率でもいいが、この景気後退は通常の景気後退ではない。金融危機で景気が急落した後では、急落前の水準に戻らなければいくら景気が上向きでも回復感はない。雇用が回復せず、設備が余っているような状況ではなおさらだ。実際、米国の失業率は危機前の倍である。

 経済縮小の程度と回復力の弱さは、現在の経済の脆弱性(ぜいじゃくせい)の結果でもあり原因でもある。過大な債務を抱えた民間部門は、住宅などの値下がりによって、消費を抑えるという結果となった。そして需要が伸びる見通しがないために、企業の投資意欲は弱まり、借り入れ意欲も抑えられてしまう。

 ところがオバマ米大統領やメルケル独首相といった指導者は、この状態をただ傍観しているようだ。リスクを極度に嫌い、有効な成長戦略を打ち出せない様は、恐ろしい。

 これは「日本化」への第一歩なのかもしれない。米国、ドイツの国債の利回りはほぼ2%、日本国債の1997年10月の利回りに近づいている。これらの国もデフレに落ち込むのか。深刻な景気後退が起こればそうなる可能性は大きい。ハイパーインフレになるよりも、デフレのほうがより可能性が高いように私には思える。

 米国における債務上限額引き上げ問題は、米国債への資金流入を引き起こした。これは2つの理由から当然のことである。1つは、米国債はいつも嵐の時に避難する最初の港であること。もう1つは、財政引き締めによって景気が悪化すると投資家が考えたことである。同じように、ユーロ圏でも投資家はドイツ国債を買っている。

 株価の見通しは暗いが、米国やドイツはまだ財政出動する余地がある。そして両国は出動すべきなのだ。困ったことに、財政支出を増やせる国はしたがらないし、支出を増やしたい国は増やす力がない。中央銀行もまだすべての手段を尽くしたわけではない。民間部門の債務削減や銀行の体質強化にやることがある。もう一度、景気後退が起これば、かなり悲惨なことになる可能性がある。現在のような状況に対応するのに、従来の考え方の枠組みをもってやるべきではない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.