「恋をしましょう」――オヤジを誘うBEAMSポスターのナゾそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年09月14日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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BEAMSの想い

 まず「恋」というコンセプト。すべての人に「しあわせ」のイメージを想起させる。「マスに向けて打つ広告など意味がない」と言われる今、あえてすべてのクラスターを串刺しにするメッセージを用いた大胆さが素晴らしい。震災を含め、元気をなくしている日本人に対する、BEAMSからの温かいエールのような気もする。

 「良質な日常生活を謳歌したいと思っている人たちに向けて、伝説でもプレステージでもない新しい世代のルール(生き方)を作ること」。企業理念の1つとして“LIFE STYLE CREATOR”を掲げるBEAMSの伝統。ユニクロやH&Mなどファッションさえ「ファスト化」する風潮への対抗軸となり続け、「それで本当に心が豊かですか」と問い続ける気概、その交差するところに、「恋」というコンセプトがぴったりはまっている。

 では、なぜ新橋なのか。

 BEAMSのサイトには3篇の「恋をしましょう体操」がアップされている。

 娘である蒼井優が言葉の通じないインド人の彼氏を親に紹介する「異国の彼編」で、母親が彼氏を気に入り「イメージは大切よ!」と父親に力説する。

 友達の彼を好きになってしまう「人の彼編」。付き合いが長いという友達と彼氏。彼はデートの際に鼻毛が飛び出している。惰性の生活はダメというメッセージだ。そんな彼のどこにひかれたのかはナゾであるが、ともかく蒼井優は「磨くわワタシあそこもここもピカピカに」と歌う。

 「恋人だらけのカフェ編」では、「何にもないとかそんな日は、恋とか落ちたらいいかもね」「おびえていたら何にもないの分かってる」とさらに背中を推す。

 3つの動画では、「まずは自らのイメージを良くせよ」「自分を磨け」「惰性の日常と決別せよ」とメッセージを伝えているのだ。

 新橋烏森口を通行するオヤジたちは、実は最もキャンペーンの対象になるのではないか。

 かつてはポパイを買い、恋にトキメキ、BEAMSの服を買って自分を磨いていた青年も家庭を持ち仕事と生活に追われるようになった。だが、ある程度地位と収入も上がり、子どもも自立していった。そんな時にぽっかりと空いた胸の穴ボコと腹回りのぜい肉に気付く。それを見ないようにして日常に埋没していく日々。そんなオヤジにBEAMSは「戻っておいで」というメッセージを込めてポスターを貼ったのではないだろうか。

 かつてBEAMSにお世話になったのは世間でいわゆる“新人類(いろいろ定義はあるが、おおよそ1960年代生まれの人々)”と呼ばれた世代。今は40代から50代に差しかかったぐらいのオヤジたちだ。

 BEAMSは2002年、丸ビルに20代後半から中高年層をターゲットとする店「ビームスハウス」を初めてオープン、その後、六本木のミッドタウン、神戸にも展開している。また原宿のビームスFも年齢層が高いといい、中高年シフトはすでにしっかり敷いているようだ。

 「恋に必要なのは、感受性だけです」。1990年代を席巻した恋愛至上主義の教祖、柴門ふみの『恋愛論』の一節だ。地位も肩書も、知性も年齢も関係ない。当時はうざかった言葉も、社会経験を積み、歳を重ねると、また違った味わいを感じる。

 最後に、「恋をしましょう」のポスターとWEBサイトにあるコンセプト全文を引用したい。

 みなさん恋をしましょう。誰かを好きになりましょう。そして自分を好きになりましょう。みなさん恋をしましょう。それは世界を新しくしますから。知らなかった歌を好きになりますから。ゴハンが美味しくなったりしますから。深呼吸の意味を変えたりしますから。それは嘘の悲しさを教えてくれたりしますから。たとえそれが終わっても、きっと何かを残してくれたりしますから。さあ、年齢を超えましょう。性別を超えましょう。経験を超えましょう。地球は愛が救ってくれますから。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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