(続)スティーブ・ジョブズはどこにでもいる遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(3/4 ページ)

» 2011年09月15日 21時20分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]

“勝つ”ことへのきわめて強い執着心

 今回のジョブズ退任のニュースの中で、私が、思わず「おっ」と声に出してしまったのは、ロイターが8月25日に配信した「米アップル新CEO、クック氏の横顔」という記事である。

アップル ティム・クックCEO。

 ジョブズは、アップルのかじを握る人間としてなぜティム・クック氏を選んだのか? 部下には非常に高いハードルを越えるよう求め、気に入らなければ情け容赦なくクビにするといわれるジョブズが、である。

 記事によると、ジョブズとクックには、ひとつ重要な“共有”事項があるそうだ。それは、「勝つために全力」を尽くすことだという。彼らを突き動かしているのは、「名声やエゴ、カネではない。目的は勝つこと」だと、ロッドマン&レンショーのアナリスト、アショク・クマール氏は書いている。

 「ジョブズ」になるためのキーワードは、“勝つ”ことへの非常に強い執念かもしれない。これは、一般的な経営者が、競争相手よりも収益を上げ、株価を高めて、株主に貢献するというような生やさしい話ではない。

 ビル・ゲイツが“勝つ”ことに執念を燃やす人物であることは、誰でも理解しているだろう。マイクロソフトの歴史は、ライバル駆逐の歴史だったと言ってよい。新しい市場ができてくると、必ずその領域に入って執念深く戦い続け、最後にはその領域を取ってしまう。

 「ワードパーフェクト」からはワープロ、「ロータス」(Lotus 1-2-3)からは表計算、「ノベル」からはネットワーク、プログラミング環境でも「ラティス」や「ボーランド」からシェアを奪った。そして、いまもさまざまな相手と戦い続けているのはご存じのとおりだ。

 とかくマイクロソフトと比較されるグーグルは、商売っ気のないトップ画面や創業者2人の物腰から、純粋にサイエンスとテクノロジーを追求している会社だと思われがちだった。しかし、このグーグルの創業者たちも、実際には“勝つ”(シェアを取る)ことに関して、異常とも思える闘志を燃やす人たちだ。

 グーグルを最初期から追っているジャーナリスト、ジョン・ヒールマンによれば、いちばん最初の創業間もない頃に、すでに「底なしの野心」を彼らに感じたという(『The True Story of the Internet』Discovery Channel)。『プラネット・グーグル』(ランダル・ストロス著、吉田晋治訳、日本放送出版協会刊)でも、“勝つ”(シェアを拡大する)ためならプライドを投げ捨てて、何がなんでも手に入れようとすると書かれている。

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