『ONE PIECE』とゲーミフィケーションの関係遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(1/2 ページ)

» 2011年09月28日 07時55分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

「遠藤諭の『コンテンツ消費とデジタル』論」とは?

 アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

 本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」に2011年9月26日に掲載されたコラムを転載したものです。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。


『ONE PIECE』に登場するキャラクターたち(出典:ワンピース 公式サイト)

 『広告』(博報堂、参照リンク)2011年10月号の特集は、「新たな未来を生きていくための物語論」というものだ。その中には、人気マンガ『ONE PIECE』(ワンピース)の話も出てくる。中村文則×幅允孝×尾原史和(敬称略)のみなさんの「ぼくたちの今日は『ONE PIECE』でできている!」という鼎談のほか、アスキー総研でこの作品の読者層を分析した結果も掲載していただいている。

 『ONE PIECE』は、尾田栄一郎による週刊少年ジャンプ連載の作品で、コミックスの累計発行部数が約2億4000万冊にもなる。この夏は、ストーリーの折り返し点だという話もあり、とくにさまざまな形で露出していた。アニメやゲームにもなっているが、なんといってもコミックスの存在感が大きい(日本の書籍初版発行部数の記録を毎回塗り換えている)。

 あるコンテンツ業界関係者の方が指摘されていた読者層は、“郊外”、“街道沿いの飲食”、“服飾”や“コンテンツ”の大型チェーン店が立ち並ぶエリアにいる20代男性。つまり、基本的に男の子の世界だということだ。昔からチャンバラもの、ヤクザもの、ヒーローものと、男性活劇を扱ってきた東映が、『ONE PIECE』のアニメ映画をやったのに象徴される。

 たしかにこの層がドライブしている部分は大きいのだが、テレビ番組「SMAP×SMAP」の「ワンピース王決定戦」を見ても、いまや読者層は大きく広がっている。冒険物語であり、キャラクターはどこまでもストレート。大きな夢があって、巨大な敵がいる。絵や擬音の使い方や、マンガならではの笑い、言葉にも力があり、それらを含めたキャラクターの魅力もある。そして、周到に作り込まれたストーリーに身をゆだねる快感がある。

 アスキー総研のネットとコンテンツに関する1万人調査「MCS 2011」でみると、同じ週刊少年ジャンプ作品でも、コミックの読者構成にはいくつかのパターンがある。『君に届け』が20代女子、『HUNTER×HUNTER』が20代男子、『バクマン。』は男女とも20代が中心の読者だ。ONE PIECEの場合は、男性も多いが女性閲読率も42.2%と高く(少年ジャンプの読者の女性比率がすでに32.5%なのだが)、男女とも10代から30代までを満遍なく読者にしている。

性・年代別の、コミックの閲読率(2010年4月から11月までに読んだことがあるかどうか)。女性中心の『君に届け』、男性中心の『HUNTER×HUNTER』とは異なり、『ONE PIECE』は男女ともに広く読まれていることが分かる

 それでは、「ONE PIECEは何が魅力なのか?」と聞くと、とくに「仲間」とか、「泣ける」という言葉を挙げる人が多い。この物語自体が、「麦わらの一味」という仲間たちの話であり、そこが、海外では「ボーイズアクション」系と呼ばれるような従来の少年ジャンプ作品とは一線を画している。「仲間」というものと「個人」の在り方というあたりに、この作品の秘密があるのではないか。

 折しも、いま世界では「友だち」というものがクローズアップされている。「Facebook」などのソーシャルメディアが、世界中の人たちを見えないネットで覆い包もうとしているからだ。友だちとか仲間とか、何かに燃えることができるか、そして「友情」・「努力」・「勝利」という少年ジャンプが掲げてきたコンセプトが、ネットワーク時代とともにバージョンアップされているとでもいうのか。

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