“マイ・ストーリー”の達人になろう吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年10月14日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 マイ・ストーリー。

 私がこの言葉を知ったのは、2008年の5月。その時、中堅企業の40代前半の女性経営者の本を書いていた。以前の時事日想でも紹介したように、いわゆるゴーストライターとして関わった

 編集者は社員数300人ほどの出版社の副編集長で、当時40代半ばの男性。彼はこんなことを言った。

 「彼女(中堅企業の女性経営者)は本を書く力はないが、一応、マイ・ストーリーを持っている。彼女のブログや過去に出した本を読むと、それが分かる。彼女の代わりに書く前に、それらに目を通してほしい」

 マイ・ストーリーとは何かと思ったが、それらを読むうちに何となく分かった。要は自分が「こんな苦労をしつつも、それを乗り越え、最後は成功した」というサクセス・ストーリーのことなのだ。

 だが、嘘のオンパレードに見えるのだ。例えば、会社の話になると、自画自賛になっていた。確かに彼女は「経営をしていること」は事実であり、そこに嘘はない。しかし、そこで起きている本質的な問題(この経営者が社員たちと対立が続くこと)を覆い隠し、それをあたかも上手く行っているかのように書くことは、事実そのものを作り上げていると言える。この意味において、私には嘘に見えた。私には、こんな公式が浮かんできた。

 「マイ・ストーリー=独りよがりなサクセス・ストーリー=嘘だらけ=詐欺まがい」

 ビジネス書の大半は、ゴーストライターが書いている。恐らく9割ほどはゴーストライターが関わっているだろう。私はビジネス書でよく見られる、この手のマイ・ストーリーには疑問を投げ掛けたい。自分を売り込む工夫は分かるし、前向きに生きていきたい考えも理解できなくもない。だが、嘘はさすがに問題ではないか。

 また、嘘をつくことをそそのかす人もいる。例えば、一部のコンサルタントや、コピーライターなどだ。彼らは「講演やセミナー、自身の本(これもゴーストライターが書いている可能性が高い)、ブログやFacebookにマイ・ストーリーを書くことでアピールしよう」と呼びかけている。

 それに感化されたからか、Facebookのプロフィールを見ると、時折、マイ・ストーリーを書いている人がいる。例えば、「●歳の時に離婚し、こんな苦労をしてきた。いまは●に目覚め、こんなことができるようになった」というものだ。特に30〜40代のコンサルタントやセラピスト、ベンチャー企業の経営者などに目立つ。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.