株式会社パトス代表取締役。
昨年電子書籍元年と騒がれ、1年以上が過ぎた。ユーザーにとっては、ほとんど何も起こらなかった業界であり市場だが、気になるデータがあった。
「eBook Journal 10月号」の中で、電子書籍の利用希望度を聞いた調査結果が紹介されていて、「利用したことはないが、今後利用したい」と思う人が、2009年(33.2%)から2010年(53.5%)にかけては大きく伸ばしたのに対し、2011年度は44.0%と大きく減少しているのだ。さらに、「利用したことはあるが、今後は利用したくない」と答えた人は、2010年の3.9%から5.6%へと逆に増えている。
これだけさまざまなデバイスが販売され、コンテンツ量も少しずつとはいえ増えている状態で、「利用したくない」と答えている割合が増えているのはどういう理由からなのだろうか。
「紙の方がいい」とか「目が疲れる」とかいろいろあるだろうが、そんなことは今に始まった話ではないし、そのための技術革新が行われ、メーカーがこぞって似たようなデバイスを出したはずだ。
よく言われるのは、「米国では書店が少なく、電子書籍のメリットが多い(書店に行かなくても本を購入し、読むことができる)が、日本ではそこら中に書店があり、本を入手するのが簡単だ」というものだ。しかし、これだけでは、アマゾンの隆盛は説明ができないし、そこら中にあるはずの書店が読者ニーズに十分に応えているとは思えない。
かつて、通販業界でも似たようなことが言われた。「米国にはすぐに行ける小売店がないので通販という販売手段が生まれ、消費者に認められた」という話だ。さらに、「日本人は商品を詳細に吟味し、手にとって見ないと購入まで至らない」などという価値観まで加わり、日本では通販は一部のマニアックなもの以外では市場として育たないとも言う人がいた。
しかし、今や日本で伸びている数少ない小売チャネルが通販であり、先日発表された9月の売り上げでも昨対比1.7%増だ。
結局、購入プロセスが変わり、商品自体が変わる中で、ユーザー(読者)に対して新しい体験と感動を与えることができないことが最も大きな理由だ。紙の書籍を買って読んで、書棚に置き、また必要な時に取り出し読み返す。誰かに教えたり貸したりしながら、さらに楽しみを増やすという現在の体験に電子書籍は勝っていないのだ。さらにその上に、相変わらず読者を置き去りにした業界の既得権益争いと主導権争いの混乱がそうした結果に上塗りしているのは誰しも感じているところだ。
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