なにはともあれ、参加者のなかに「日本が大変なことになっているので、いてもたってもいられなくなった」ということで鹿児島からやってきた40代女性がいたので、感想を聞いてみた。
「こういう抗議は上京してから初めて出たんです。フジテレビのデモにも参加しましたが、こっちはまた違いますね。声を出したり音を鳴らすと、通行人のなかには怖がる人もいますが、黙っているのでプラカードもちゃんと見てくれている」
と、まんざらでもでない。西村氏ら主宰者からも「鹿児島からきたなんて、すばらしい愛国者だ」と大歓迎を受け、みんなで「おつかれさま食事会」に行ってしまった。
その背中を見送っていると、ふいにベテラン風の私服刑事がニコニコしながら近づいてきた。中国大使館前でもあった恒例の職質か。
「あの、どうも……ほら、えっと……サピオの方ですよね」
「え……あ、はい……」
「台湾問題とかもよくやっているもんねえ」
「まあ……」
どうも誰かと勘違いをしているようだが、あいまいに頷いておいた。確かに雑誌『SAPIO』では何度か記事を書かせてもらったことはあるが、台湾問題などチンプンカンプンである。ま、余計なことを言うと面倒なので、「おつかれさま」とその場を後にした。
静かなる怒りを秘めて無言の抗議をおこなう人々と、それに対峙(たいじ)する沈黙の警官隊。なにやら日本人的な“わびさび”すら漂うこのシュールな世界に興味があれば、毎週水曜正午に韓国大使館へ行ってみるのはいかがだろうか。12月7日までおこなっているそうだ。
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
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