「南米の東大」サンパウロ州立大の日系人率は20%超――サンパウロ新聞記者、植木修平氏世界一周サムライバックパッカープロジェクト(2/4 ページ)

» 2011年12月13日 08時00分 公開
[太田英基,世界一周サムライバックパッカープロジェクト]
世界一周サムライバックパッカープロジェクト

高い進学率を誇る日系人

――現在の活動内容・仕事内容について教えてください。

植木 社会部の記者として主に日系社会を中心に取材を行っています。その中で、新しいニュースを取り上げて行くことはもちろんですが、海外で発行されているエスニック新聞の特徴でもある「過去の中から新たなニュースを発掘する」作業や検証も記者としてかなり重要だと気付きました。

 多くの方にお話を聞き、これまで語られることのなかった日本移民史を掘り下げて行くことなどは、未来に向けて大きな価値があります。今後の移民研究の貴重な資料にもなり、またこれから新たに海外に飛び出していく人たちや、海外で仕事をする日本人にも大きなヒントにもなるとも考えています。

 その一方、ブラジルのダイナミックな経済成長によって、日本からのブラジルの見方が変化していると日々感じています。リーマンショック以降、約10万人がブラジルに帰るなどしましたが、日伯交流は現在進行形で変化しています。

 その中で、日系ブラジル人の動向はダイナミック。若い世代には躍動感を感じます。日系人の子息は高い進学率を誇り、「南米の東大」と言われるサンパウロ州立大学の20%以上は日系人です(ブラジルの日系人口比率は1%未満)。

 勤勉で正直な日系人は尊敬を集めており、子息の教育にも熱心です。そのため、日系人はブラジル進出を考えている日本企業との間を取り持つなど、日本とブラジルとの間の交流に大変重要な役割を果たしていると感じます。

 現在、私が一番注目して追っているのは野球のブラジル代表。構成メンバーの9割以上を日系人が占めており、2013年に行われる第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の予選(2012年10月開催予定)に、ブラジル代表は始めて参加します。予選を勝ち抜き、本戦に行けば日本と対戦することもあるかもしれません。

 代表選手のアイデンティティはもちろんブラジルですが、日系ブラジル人がブラジルのために国の誇りを背負って戦う姿は、日本とブラジル双方に大きな話題を与えるかもしれないと考え、密着取材しています。これは日系ブラジル人が国に貢献できるチャンスなので、大きな期待を持っています。

 私は育成年代から成人までブラジルの野球を追っており、9月には10歳以下のブラジル代表がパン・アメリカンに出場した際には中米ニカラグアにも同行して取材しました。密着取材を得意としているので、WBCに出場した場合は日本や米国まで追いかけていきたいと考えています(笑)。

 日系ブラジル人が1カ所に集まって、ブラジル代表を応援している場面をいまから想像するだけで胸が熱くなります。今年、11月にはアルゼンチンでフル代表の南米大会もあるので活躍を期待しています。

サッカー好きが高じてブラジルに渡ったものの、なぜか野球を取材

――ブラジル(海外)に渡った理由を教えて下さい。

植木 サッカーが大好きなので、南米独特のサッカー文化(ノリ)を肌で感じたいということと、海を渡った理由は何であれ、世界を股にかける生き方(移民)に興味があったからです。特に海外のコミュニティの中で発行されるエスニックなメディアで仕事したいと強く思っていました。

 ブラジルに来て、サッカーが好きなはずなのに、今は野球に夢中なのが自分でもおかしいと思っています。

――海外で働くという志向をもともとお持ちでしたか?

植木 小さいころから何となく自分はそうするものだとは考えていました。若い時に渡るのもいいですが、34歳で渡るのもまたいい。日本での社会経験は海外でも役立ちます。

 具体的な例を挙げると、ブラジルはすべての職業でそうなのかもしれないですが、新聞記者であっても仕事の緻密さがあまりないように思えます。取材が個性的ではありますが雑。

 多くの日本の優秀な中堅ビジネスマンはリスクを管理することにかけては世界的にも優秀です。従って、取材場所で一緒になった自社や他社のブラジル人記者からも、「ねえ、ここはどうだったの?」と聞かれて頼られることもたびたびあります。

 日本でつちかわれた地道で無駄のないビジネススキルは、日本人が思うより世界では武器になります。海外に出るのが年齢的に遅くはなっても、卑屈になることはまったくありません。むしろ多くの経験を持っているので良いかもしれません。ただし、ゼネラリストよりも絶対何かのスペシャリストであった方がいいと思います。

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