はぁ? オレの愛人? 政治家はこうして殺される中田宏「政治家の殺し方」(4)(2/3 ページ)

» 2012年01月05日 17時47分 公開
[中田宏,Business Media 誠]

 「はぁ? オレの愛人?」

 すぐに別のチャンネルに変えてみると、こちらも同じ映像を流している。どちらも全国ニュースの時間帯だ。時間にして数分だったが、私には何十分にも思えた。

 まるでドラマの一場面を見ているような不思議な感覚。つまり、自分が訴えられているのに、自分のことではないような感覚だ。それはそうだろう。女性が訴えていることは、身に覚えのないことばかりなのだ。まるっきり現実感がない。

 「いったい世の中はどうなってるんだ? 『私が愛人です』と名乗り出ただけで、全国ニュースで流されるのか!?」

 そんな思いが頭のなかを駆け巡り、全身の力が抜けていった。茫然自失とはこういうことをいうのだろう。全国ネットで映像が流れ、私はモラルのないハレンチ市長に仕立て上げられた。もはや手の打ちようもない。

 週刊誌なら、読む人もいれば読まない人もいる。しかし、テレビはお茶の間に突然、映像が流れるのだ。主婦や子どもだって見るだろう。イヤな予感がした。

 それは自宅に帰ったとき、現実のものとなった。夜の8時過ぎだった。

 「ただいまー!」

 自分を奮い立たせるように元気よく声をかけて、2DKの市長公舎の狭いリビング代わりの台所に入ると、妙な空気が流れている。当時、中学生と小学生の子ども2人と妻がテーブルで年賀状を書いていたのだが、ペンを持つ手はまったく動いていない。心ここにあらず、といった感じだ。

 「どうしたの?」と聞くと、私の顔をボンヤリ見ながら、妻が「みんなで年賀状を書いていて『あー、疲れた』とテレビのスイッチを入れたら、いきなり『中田市長の愛人』が出てきた」と言う。その後、気を取り直して年賀状を書き続けたらしいが、3人とも手につかなかったようだ。それはそうだろう。妻や子どもたちだって、相当ショックだったにちがいない。

 一連の週刊誌の記事が出た時点で、妻には私から話をしていたし、市長就任直後からさまざまな嫌がらせを受けてきた事情もよく理解してくれていた。しかし、まさかテレビに“愛人”が映し出されるとは思ってもみなかった。まったくの不意打ちだった。

 私も何と言っていいかわからず、その場の空気をほぐすように「ご飯は?」と聞くと、「何も作っていない」という。それはそうだろう、夫の“愛人”(と称する)女性が堂々とテレビに出てきたのだ。料理どころではない。

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