縮小し続けるボウリング市場、栄光の時代はよみがえるか?嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(2/4 ページ)

» 2012年02月17日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

新規顧客開拓に効果的な意外な方策とは?

 こうした苛酷な環境にどのように対応していけばよいかを考えるに当たっては、「新規顧客開拓(一見客数の拡大)」とその「定着化(常連化)」という2つの段階に分けて考えるのが良さそうだ。

 その第1段階としての新規顧客開拓に関しては、「やりようによっては、かなりのことができる」と中里さんは断言する。それもレトロでアナログな2つの手法が意外なまでに効果的だという。

 「1つ目は私が相模原パークレーンズに入社したころやった方法なので、今、それと同じことをして、果たしてその通りうまく行くかは分かりませんが……。私が入社した当時は、ブームが去った後で、客足も遠のき、時には怖い筋の方々がいらして胸倉をつかまれるようなこともありました。そんな状況でしたから、館内は汚れ傷んで、まるでお化け屋敷のようでした(笑)。

 そこで、私は壁面などのペンキ塗りを1人で始めたのです。何年もの間、毎日毎日塗り続けたのですが、館内がキレイになりデザイン性が高まっていくのに正比例して、お客さんの数が増えていったんですよ」

 その結果、当時、神奈川県内で売上最下位だった相模原パークレーンズは県内トップにまで上り詰め、全国のボウリング場の経営者たちが視察に訪れるまでになったという。

階段の装飾が特徴的な相模原パークレーンズ

 「2つ目は初心に返り、2011年から取り組み始めたことなのですが、相模原パークレーンズとして、割引券の地元へのポスティングに力を入れています。私が先頭に立って半年間で12万枚をポスティングした結果、その割引券を持参して毎月1500人近い方々が来館し、しかもその95%が新規のお客さんなのです」

 こうした努力の甲斐あってか、経営不振に苦しむボウリング場が多い中にあって、相模原パークレーンズは年間売上3億3000万円、経常利益率は15%前後という好成績を達成している。

 悪化の一途をたどる経営環境の中で決め手となった起死回生策が、ペンキ塗りを通じた館内美化、あるいは業者に依存せず自らの手で行う地元でのポスティングだったという点は注目に値しよう。このままでは絶体絶命という時、一発逆転のイノベーションを指向しがちだ。それは大事なことであるが、それ以前にまずはサービス業としての初心に立ち返って、基本をしっかり押さえてみることが意外なまでの効果を発揮することがあるというのも事実なのだ。

カギを握るのは、新規顧客の定着化

 こうして新規顧客(一見客)数の拡大に成功したとして、それを固定客として定着させることができるかどうか。それができなければ業績の安定的回復は難しいのだが、現在のボウリング業界の困難は、まさにここにあるようだ。

 これはすべてのサービス業に共通することだが、常連客と店のスタッフは付き合いの長さを反映して会話も多く、両者の間には独特の空気が醸成され、それがその店の雰囲気に大きな影響を与えている。しかしそれが行き過ぎると、常連客にはすり寄り笑顔を振りまくが、一見客に対しては笑顔もなければ声もかけないという明確な“差別待遇”が顕在化することになる。一見客は、疎外感を味わいながら、みじめな気分で店をあとにし、2度とその店に来ることはないし、その不快な気分を多数の友人や知人に伝えることとなる。

 こうした状況を悲しい光景として「あってはならない」と主張しているのが、人気ラーメンチェーンの博多一風堂・河原成美社長だ(「ラーメン界をリードしてきた男は何を作ってきたのか? 『博多 一風堂』河原成美物語」)。河原さんは「常連・一見、有名・無名を問わず、お客さんはみんなが平等に扱われるべきであり、来店後にアンチになるお客さんがいるとすれば、それは100%店側の責任だ」と言い切る。

 こうした「常連客にも一見客にも平等な接客」をどう実現するかは、ボウリング業界においても重要な経営課題である。そして、「業界だけでなく、好調な経営を維持する相模原パークレーンズにおいても同様に重要課題だ」と中里さんは言う。

 「常連のお客さんは勝手が分かっているのでスタッフとの会話も自然に生まれますが、初めて来るお客さんは知り合いがいないし、勝手も分からず不安で孤独です。だからこそ、当センターとしても、笑顔で積極的に声掛けを励行するよう全スタッフを教育しているのです」

 しかし、簡単なことにも見える笑顔&声掛けが実は「言うは易く行うは難し」で、なかなか実現しないのだと中里さんは嘆息する。

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