“卓上ルンバ”に吸い寄せられて――『大人の科学』の魅力を探ってみた郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2012年02月23日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

歴史をたどる原理への旅

 西村さんの思い出に残る付録はポータブル掃除機。吸引ゴミフィルターにティッシュを使い、モーターで羽根を回して口で吸う、扇風機と逆の単純な構造を見てハハンとした。「掃除機をひっくり返せば扇風機なのだ」と。付録から製品原理を知った。

 「学研の付録は教科書に沿っています。1年生、2年生……と学習単元に沿って、付録を考えるんです。ところが大人には単元がない。そこで“科学の歴史”をたどることにしました」

大人の科学マガジン編集長の西村俊之さん

 大人の科学(2003年4月創刊、年4回発行)の歴代付録はレコード盤蓄音機、蒸気エンジン、ニュートンの反射望遠鏡、茶運び人形、ダ・ヴィンチのヘリコプター、和時計など。そのテーマは“科学の結実”ないし“製品の原点”である。暮らしをさかのぼるところに付録テーマあり、ということだ。

 「よく科学は答えが1つで、国語は解釈がいろいろ、社会科は常に変わる……と言うじゃないですか。でもね、ニュートン力学をアインシュタインが変えたように、科学だって変わるんです」

 科学とは何か? そこに2つの答えがある。1つは人の周りには絶対真理が存在していて、我々はそれを発見する。もう1つは、どんな発見も人の思考の枠の中の出来事であり、今分かっていることを我々は知っているだけ。西村さんは言う。

 「どっちが正しいのかはさておき、すべて人間が関わってきたこと。昔の人が工夫した何かに触れる機会を作りたいのです」

 付録がクローズアップされがちだが、冊子には付録のテーマとなった技術の歴史や原理の解説、改造の手ほどきまで掲載する。

 それで思い出したのが子ども時分に作ったタミヤ模型のプラモデル。その組み立て説明書には余録が多かった。戦車なら「戦争の歴史」「将軍や政治家の動き」「兵器製造会社や素材事情」などびっしり書かれていた。「プラモなのになぜそこまで?」という気もしたが。そのワケはともかく、読むと戦車が実在するように思えたものだ。

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