ピーンポーン。ある週末の朝、三十路男・ホリウチは玄関のチャイムの音で目を覚ました。こんな時間に誰だろう? しかしチャイムの音は続く。「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……!」
ホリウチくんは誠編集部で働く編集記者だ。得意とするのは突撃系記事。モテたくてiPadを持って山手線を5周したり、格安物件に幽霊が出るのか確認しに行ったり、毎年欠かさず年末のコミケが終わった足で聖地・鷲宮神社へ初詣に行ったりと、体を張った記事を書くのが得意なデキるやつなのだが、モテない。いかんせんモテない。
つい最近まで、誠 Biz.IDの鷹木編集長が「面白ビジネスグッズでモテる?」という連載をわざわざ立ち上げ、ホリウチくんをモテさせるべくあちこちのキャバクラへ連れて行ってみたのだが、それでもやっぱりダメなものはダメだった。性格も温厚だし優しいし、悪いやつではないのだが、どうも「モテる感じ」ではないのだ。服装とか気の利いた会話とか女の子への気配りとか、モテる男なら無意識にやっていることが彼にはできない。「……というか、どうして最近僕は記事のネタにされ続けているんだろう」とホリウチくんがまだ半分眠った頭で考えているところで再度玄関のチャイムが鳴った。
ピーンポーン!!!!
休みの日の朝なのに、何なんだいったい! 温厚なホリウチくんもややムッとした感じになりつつ、起き上がって玄関まで行ってみると、そこには予想もしない光景が待っていた……。
鳴り続けるチャイムの音に起こされたホリウチくんが、玄関先で見たものは……見知らぬ女の子だ! しかも(ものすごく)カワイイ!
「あのぉ……電気、もらえませんか?」
女の子はちょっと申し訳なさそうに、でも妙に堂々とそう言った。「え? 電気?」「そうです。電気がなくて困っていて……あのぉ、電気、もらえませんか?」
頭を下げてお願いする感じではあるものの、しかし「うん」と答えるまではどいてくれそうにない。何だか分からないが、とりあえずホリウチくんはOKしてみることにした。「ええと、よく分からないけど、いいですよ。電気をあげるってどうしたらいいんですか」「家のお隣、ガレージみたいなところがありますよね。あそこ、お借りします!」
ホリウチくんがうなずくかうなずかないかのうちに、女の子はぴょこんと玄関を飛び出して行ってしまった。それから数十秒後、水色のクルマがシュルシュルと玄関脇のガレージに入ってきた。……な、なんだアレ!?!?!?!?
ホリウチ家の玄関脇のガレージは、確かに大きなクルマがゆったり停められる程度の大きなスペースが空いている。そのスキマに水色のクルマが、シュルシュルと静かに静かに入ってきた。クルマなのに、エンジンの音がほとんどしない。なんだこれは。
水色のクルマは静かに停車すると、運転席が開いて、さっきの女の子が降りてきた。「すいません、これなんです。電気貸してもらえますか? できたら200V。なければ100Vでもいいんですけど」
「100Vなら、ここにあるけど……」。女の子はぺこりと頭を下げると、クルマの右後ろをパカリと開け、トランクの中から充電コードを取り出し、クルマとつないだ。「ふぅ、これで充電できるわ……ありがとうございます。助かります」女の子は充電ができていることを確認すると、ニコっとホリウチくんに笑いかけた。……か、かわいいじゃないか!
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