現場に“共犯者”がいないと良い作品はできない――アニメと広告は融合するか(後編)神山健治×博報堂(2/5 ページ)

» 2012年03月31日 00時01分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

“変わったもの”を作ってはいけない

――『東のエデン』を活用したXi AVANTや『009 RE:CYBORG』を活用したスタッフサービスのCMは既存作品を拡張した広告でしたが、完全にオリジナルのアニメーション広告を作ることはあるのですか?

石井 それはもちろんあると思います。ただ、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』の公開を控えて、『東のエデン』の熱も冷めやらぬ中、その両方のメリットを使わない手はないということでXi AVANTの企画は決まりました。

 アニメーションで広告を作るとなると、スタッフは、一風変わったものを作ろうとするんですよ。普段できないことを。

 ただ、お客さんが見たいものは、変わったものではなくて、安心感があって、なじみ深くて、新しいモノのはずなので、そういう延長上にできた作品だったんじゃないですかね。全編水彩画でやろうとか、全編クレヨン画でやろうとか、なりがちなので。企業は、クレヨン画で携帯電話を表現してほしいとか望んでいないんですよ(笑)

スタッフサービスCM 「はちあわせ編」

古田 そこは観客ファーストですよね。広告業界でアニメ企画を考えると「インパクトが大事だ!」みたいな発想になるわけですよ。「ある作品のキャラクターと別の作品のキャラクターを戦わそうぜ!」みたいな。しかし、それでインパクトがある広告ができても、その作品のファンが喜ばないものを作ってしまう危険性があります。

神山 例えば、ある作品のキャラクターを出して、商品名を喋らせるということであれば、企業からするとタレントと同じ扱いなんですね。でも、アニメーションを作る側は「何かやらされたな」という感じで多分終わっているんです。

 時々、謎のアート系アニメ広告が出てきます。それは、企業が「この商品を宣伝してほしい」と言っているにもかかわらず、現場が「しめた。高額の制作費で好き勝手な短編が作れる」とクレヨン画で携帯電話を表現するようなことから生まれるんです。

 私は若いころにそういうのをよく見ていて、「本当に無駄なことをしているな」と思っていたんです。今回でいけば、原作からずっと人気のある作品があって、それを関係ない人に発注するのではなく、実際に作った人がそれを使って、双方にメリットがあるような形でのCMを作るということですかね。これはできるようで、本当にできないんです。

 あるアニメーションスタジオに、ゲームメーカーから「動画を作ってほしい」と依頼が舞い込んだことがありました。先方はどうやって発注したらいいかも分からないから、「クリエイターのやる気に任せます」みたいに注文したら、その言葉通りにやる気だけで作ってしまって、「そんなシーンなくてもいいのにな」みたいな動画が作られ、制作予算の3分の2が損なわれていたというようなことが多々あったんです。

 それは根本的には、アニメーション業界の貧乏から来ていたと思います。テレビCM業界と比べると、ゼロが2個違う世界ですから。30秒のテレビCMが数千万円の制作費なのに対して、アニメーション業界は2時間の作品を作るのに1億円出ていないという状況です。「お金をもらえないから好きなことやっちゃおう」というところがあったと思うんです。

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