現場に“共犯者”がいないと良い作品はできない――アニメと広告は融合するか(後編)神山健治×博報堂(1/5 ページ)

» 2012年03月31日 00時01分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 東京ディズニーリゾート大成建設富士重工業など、企業がアニメーションを広告に活用する事例が目立つようになっている。そんな中、博報堂のクリエイティブディレクター古田彰一氏と、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『東のエデン』などの作品で知られるアニメーション映画監督の神山健治氏が共同CEOとなり、2011年4月1日に誕生した会社がSTEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)だ。

 発足から1年、NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」のCMや、『009 RE:CYBORG』のキャラクターを活用したスタッフサービスのCMなどを制作してきた同社。前編に続き、後編では古田氏と神山氏、石井朋彦プロデューサーの3人に、会社設立後に手掛けてきた事例をもとに、アニメーションと広告の融合についてどのように考えているか尋ねた。

 →スティーブンスティーブンが目指すアニメと広告の融合とは(前編)

アニメなら今はないものでもアピールできる

――設立後、どのような企画を手がけてきましたか。

古田 設立して最初の仕事がNTTドコモの「Xi AVANT(クロッシィアバン)」です。2010年秋くらいから企画が始まって、会社設立の準備を進めながら作り、2011年3月26日に公開しました。

全編フルバージョン『Xi AVANT(クロッシィ・アバン)』2D版

 NTTドコモではXiという次世代通信サービスを始めるにあたって、2010年秋の時点では試験電波が飛んでいました。しかし、まだ対応機種が発売されていない状況でした。

 端末がないのにXiの広告を打ってみんなが「Xiを使いたい」と思っても、その広告は空打ちになってしまいます。しかし一方で、NTTドコモの技術の優位性アピールはしたい。そこで白羽の矢が立ったのがアニメーションです。アニメーションならば架空のXi対応機種を登場させて、その使い勝手や未来のワクワク感を的確に伝えられます。特に神山監督は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や『東のエデン』で、近未来の通信デバイスを作品中で大活躍させているので、その意味からも親和性が高かったのです。

 映像の中に、Xiを使った7つの近未来の機能を盛り込んでいますが、これは神山さんや石井さんと一緒に、NTTドコモの方から直接オリエンテーションしていただきました。まさにスタートラインを合わせるという作業ですね。

――完全にオリジナルの作品というわけではなく、既存のアニメ『東のエデン』との関連性を匂わせているのはなぜですか。

神山 共通のキャラクターなどはいますが、直接そうはうたってはいません。ただ、ストーリーがあった方が真実味があるだろうということと、『東のエデン』からのファンが入りやすいというメリットからですかね。

古田 企業からすると、市場をゼロから作るところから始めるのではなく、『東のエデン』ファンというトライブ(族)がまずあって、そこを起点にソーシャルグラフ※を伸ばしていけばいいので、コミュニケーションプランが非常に明快になる。そうしたトライバル・マーケティングも意識していました。

※ソーシャルグラフ……Web上での人間の相関関係や、そのつながり、結びつきを意味する概念。

――既存の作品をベースに広告を作る時、その作品に寄せていくか、宣伝する商品に寄せていくかのバランスが問われると思います。Xi AVANTだと、クリエイター側は『東のエデン』の要素を強くしたいというのがあって、クライアント側としては「もう少しXiを宣伝してくださいよ」というのがあって、バランスをどうとるかという話にもなると思うのですが。

石井 研究所に見学に行った後、古田さんから「この7つの機能は出しましょう」という提案がありました。その7つの機能を4分割する形で、監督がストーリーを作っていきました。両者とも「Xiの機能をしっかり説明しつつ、面白いものを作ろう」という意識が最初からできていたので、あまりそこはブレたり、「こうしてください」みたいなことはなかったですね。

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