―― iTunes Music Storeの登場によって、音楽業界にはデジタルコンテンツを管理する1つのモデルが確立しました。これに対して、初音ミクは極めてオープンなプラットフォームですが、どのような発想からこうした仕組みが生まれたのでしょうか?
伊藤 発想というより、自由な創作を守るべきだという思いがまず最初にあった。そのための課題を素因数分解して、問題の要素を明らかにした上で、できることから1つずつ解決していったわけです。
例えば自然界は、シンプルな法則によって規定されています。すべての花が一斉に咲いてしまうと、競合が多過ぎてすべての種が絶滅してしまいますから、花は花なりのストラテジーを持っているんですね。梅であれば、まだ寒くてクライアントの昆虫は少ないけれど、コンペティターのいない時期に花を咲かせることによって、確実にそのマーケットを獲るという戦略かもしれません。
梅には梅の、桜には桜のストラテジーがあり、しかもお互いに話し合って花開く順番を取り決めたわけではない。恐らく植物の世界も過去に何度もコンフリクトがあり、紆余曲折を経て、今のようなすみ分けに落ち着いたのでしょう。
あらかじめがっちりと規定を作って管理するアプローチもあれば、こうした自然界の生態系のように、自由な競争の中で秩序が生まれてくる世界もある。前者を“密結合”、後者を“疎結合”とすれば、世の中の流れは確実に疎結合に向かっています。
金融システムや企業の基幹系システムなど、従来のコンピュータシステムは極めて密でしたが、インターネットは完全なる疎結合です。国家レベルでは、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が解体された。企業においても終身雇用が崩れ、人材の流動性が高まっている。世の中の流れを大局でとらえれば、向かうべきベクトルは自ずと定まってくるものです。
その中で、アップルの垂直統合モデルは完全なる密結合ですよね。これは、Appleというブランドやジョブズという経営者のカリスマ性あってのビジネスモデルだと思います。
限られた範囲でなら、密なモデルが通用するかもしれない。でもスケール感をもって展開しようとするなら、自然界にならって、それぞれの自発性に任せながら多様な種の生態系を作り上げていくことが重要だろうと。
疎のモデルでは、どの花をいつどこに咲かせるのかを決めることはできません。ただ、少なくとも、大気の成分や水の量をコントロールすることは可能です。ライセンスをどう設計するかによって、好ましい方向に秩序化されるようにうながすことはできます。
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