だが、寺島氏は地元の新聞の記者として懸命に取材を続けた。東電の原発事故以降、風評被害に苦しめられた同地の農家が畑にヒマワリの種を植え、風評被害の払拭、そして傷ついた地元民を癒そうと呼びかけたとき、寺島氏はこれを記事で紹介したという。
本書の帯の写真は、この運動が実りヒマワリが開花したときの美しいワンシーンだ。
『風評がある、声を聴いてもらえない、遠くに壁がある――との思いは、被災地の人々が多かれ少なかれ感じているものです。だからこそ、当事者の側から発信することが大事で、何でもやってみるべきだと思います。それを手助けすることに、地域の新聞の役割もあります』
当欄でなんども強く批判してきた在京の大手メディアに決定的に欠けている点、つまり震災を表層的に伝え、「あれから1カ月」「震災後1年」と区切りごとにお祭り騒ぎする姿勢と、被災地のメディアが決定的に違う点が同氏の指摘するポイントではないだろうか。
本書は、寺島氏のブレないポリシー、すなわち記者魂が全編にわたって体現されている。それだけに、在京のメディアでは伝えられてこなかった被災地に住む人たちの切実な思いがストレートに伝わってくるのだ。
今年2月、筆者は仙台市の河北新報本社で寺島氏と対面した。当日、別件で同社を訪れていた筆者が会いたいとの旨を伝えたあと、石巻市から取材で戻ったばかりの寺島氏に会った。
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