ソーシャルゲームが儲かる仕組みソーシャルゲームのすごい仕組み(3)(2/4 ページ)

» 2012年05月15日 08時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]

ソーシャルゲームが儲かる仕組み

 プレイヤーにとってそのほとんどが無料ではじめられるソーシャルゲーム。Facebookなどのソーシャルメディアからの友人からの誘いに応じて何気なく始め、気が付くと「はまっている」ことも多い。

 1タイトルあたり数千円で販売されるパッケージゲームに対し、提供者側から見ると、ユーザーが課金アイテムを買ってくれるまでは1円も入ってこないモデルだ。その間もサーバーの利用料金などインフラコストは掛かっていく。課金アイテムも1つあたりは数百円単位であることがほとんどで、相当数が出ないともうけがでない。

 実際、CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が行った調査によると、モバゲー、GREEとも無課金で遊び続けているユーザーが約75%を占める。残りの15%前後のユーザーにいかにアイテムを買ってもらうかに、各ゲーム提供者は知恵を絞っている。

 パッケージゲームであれば、宣伝やシリーズ作品などは前作あるいは類似作の成績を基にある程度の数字を見込むことができたが、歴史の浅いソーシャルゲームの場合はそういうケースはまだ少ない。そこで、サービス開始前は、ユーザーのモチベーションを高めるべくさまざまな仕掛けをゲーム内に用意し、開始後はKPIの推移をにらみながら調整や改良を加えていくことになる。

 多くのソーシャルゲームではチュートリアルが用意され、ゲームの基本的な進め方をまずは手ほどきしてくれる。その間、ネットの向こう側にいる運営担当者はチュートリアルの途中で離脱者(別のゲームや画面に移ってしまうユーザー)が出ないよう、そこでの説明文の一字一句や画面上のボタンの配置、画面切り替えの演出などに細心の注意を払っている。同様に、課金アイテムの売れ行きはもちろん、その利用状況などデータベース上のさまざまな数値を見て、ゲームバランスを調整していく。そこで行われていることは「プレイヤーのゲームへのモチベーションをいかに刺激し、高め、維持していくか」ということに尽きるだろう。その実態は2章以降でも触れるが、このモチベーションを喚起する仕組みを、「ゲーム」という枠組みにとらわれず、マーケティングの分野でも活用しようという動きが近年活発になっている。そのコンセプトは「ゲーミフィケーション」と呼ばれ、ニュース等でもよく耳にするようになった。

 ややアカデミックな話になってしまうが、ソーシャルゲームを理解する上で重要な話なので説明を続けよう。

 ゲーミフィケーションの第一人者とされるGabe Zichermannは、その理論を、プレイヤー(マーケティングの場合は顧客)を4つに分類して説明している。ゲームやサービスの運営者がそれぞれのプレイヤータイプに応じた働きかけを行うことで、その効果(関心や購買意欲の喚起)を最大化するというのがこの理論の肝といえるだろう。

ソーシャルゲームにおけるユーザーの4分類

 プレイヤーの4類型は、アチーバー、エクスプローラー、ソーシャライザー、キラーで構成されている。1つずつ見ていこう。

 アチーバーは、ゲーム内に用意されるさまざまなミッションをクリアしていくことにゲームの面白さを見いだすタイプのプレイヤーだ。それによって、自分のレベルがあがったり、さらに強いアイテムを獲得したりすることにゲームプレイの主眼がある。

 エクスプローラーは、ゲーム内を探索し、好奇心を満たすことに喜びを覚えるタイプと定義されている。ゲーム内に隠された謎を解いたり、詳細が分からないアイテムやゲーム内のフィールドを「アンロック」するためにゲームプレイを行うユーザーをイメージすればいいだろう。

 ソーシャライザーは、ゲーム内で生まれるコミュニケーションを楽しむタイプのプレイヤーだ。ソーシャルゲームは、チャットやアイテムの交換などを通じてほかのプレイヤーと協力しなければ、先に進むのが難しい場面が用意されていることがほとんどだ。このタイプのプレイヤーはそういった場面で率先してほかのプレイヤーを仲間に招き入れ、プレイ方法などを手ほどきしながらミッションのクリアを支援する。そのためほかのプレイヤーからの信望も厚い。ソーシャルゲームの魅力や中毒性を語る際、「他者からの承認欲求が満たされる」点を指摘する人も多いが、それは主にこういったタイプのプレイスタイルを指しているといえるだろう。

 最後が「キラー」だ。本書でもたびたび「対戦」について触れることになるが、その名の通り、ほかのプレイヤーを上回るスキルやアイテムを身につけ、勝ち上がることに喜びを感じるタイプだ。

 Zichermann自身も注釈を入れるように、ソーシャルゲームのプレイヤーが完全にこの4類型に分類されるわけではない。あるプレイヤーがある場面ではアチーバーの側面が強くなったり、ある場面ではソーシャライザーとして振る舞うこともある。

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