世界のIT業界の動きが分かる街、バンガロールを訪れてみた遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/4 ページ)

» 2012年05月24日 08時00分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

重要なのはバンガロールに“来ること”

SISC(Sony India Software Centre)のオフィスビル

 インドの南部にある「バンガロール」という都市に、世界のIT企業の多くが拠点を置いていることは、まともなビジネスマンなら知っていると思う。IBM、グーグル、ヤフー、アマゾン、ノキア、アクセンチュア、アカマイ、インテル、シスコ、オラクル、サムスン……など、バンガロールの地図は、IT業界の勢力図を見ているような気分になる。それらに加えて、インフォシスに代表されるインドの巨大ソフトウエア企業も控えている。

 私はカレーが好きで毎日のように食べているのだが、実はインドには行ったことがなかった。それが、たまたまいろんな縁があって、南インドを代表する都市チェンナイ(東インド会社で知られる昔のマドラス)に旅行することになった。それが、出発1週間前くらいに「遠藤さんならバンガロールには行くでしょう!」と何人もの方に言われ、チェンナイに滞在する予定の6日間の途中3日間を、バンガロールで過ごしたのだ(チェンナイからバンガロールまでは飛行機で1時間)。

 バンガロールでは、その昔、「VAIO」や「NEWS」でお世話になったソニー(Sony India Software Centre)の武鑓行雄(たけやりゆきお)さんとお会いすることになった。というよりも、武鑓さんやソニーのスタッフの方々から有益な情報をいただき、かつ大変にお世話になってしまった。最高の南インド料理のレストラン(!)から電脳街(さすがインドのシリコンバレー)、寺院やピカピカのショッピングセンターまで堪能させてもらった(本当にお世話になりました)。

 ソニーのオフィスも訪問させてもらったのだが、取材で行ったわけではないので中には入らず、ただ武鑓さんからは興味深いお話をいくつもお聞きした。その中で、とても印象に残っていることがあるので、ここで今書いているというわけだ。

 バンガロールには、世界の名だたるIT企業が拠点を置いているのはご存じの通りだが、日本企業でここに進出しているのは約80社。しかし、ほとんどがIT企業以外だそうだ。インド全体で見ても、スズキやトヨタなどの自動車、日清食品のチキンラーメンやヤクルトも売っている。ヤクルトは10ルピー(15円)で、ヤクルトレディーもいるそうだ。ところが、IT系となると、バンガロールでもソニーのほか東芝など数えるほどしかない。

 グーグルやヤフー、インテルなど、バンガロールに立ち並ぶIT企業のビルの写真は、ビジネス誌などでご覧になったことはあると思う。確かに「スゴイな」とは思うのだが、インドというのはやはり遠い存在と感じた人が多いのかもしれない。「インドのソフトウエア会社が、日本で営業をかけているのだから、こっちからインドに行く必要はない」という意見もあるだろう。目黒にある大手銀行の200人くらいいるソフト開発部門を訪ねたことがあるが、半分がインド人、半分が日本人だった。

 しかし、武鑓さんは「そういうことではなくて“バンガロールに来る”ことが重要なのだ」と言うのだ。

 そもそも、インドの話をすると「やっているのは電話サポートでしょう」と言われることが多い(まさに『ONE NIGHT @ THE CALL CENTRE』の世界というわけだが)。これには、インド人は英語ができる割には人件費が安いからと、一段下に見ている部分があるのではないかと思う(映画『スラムドッグ$ミネオネア』は、まさにそうした世界を描いていた)。もう少し新聞記事を真面目に読んでいる人になると、「BPO(会社の総務・人事などの業務処理のアウトソース)ですよね」という反応になってくる。

 もちろん、それらも小さくはないのだが、ソフトウエア開発や半導体設計などが、ITと言った時のインドの性格を際立たせている。TI(テキサスインスツルメンツ)がバンガロールに進出したのは、26年前の1986年だそうだが、いまやほとんどの半導体メーカーがバンガロールに拠点を持っている。かつて、私の会社が関係していたNexGenの担当者は、非常に高度なCPUの設計ができる人は世界中でも限られており、その多くがインド人だと言った。しかし、問題はインド人がコンピュータの仕事に長けていて(2ケタの九九ができるとか)、その割に彼らの年収が安い(新卒で年収35万ルピー=51万円程度)というような話ではない。

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