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» 2012年05月30日 08時00分 UPDATE

アニメビジネスの今(前編):なぜガンダムは海外で人気がないのか (4/4)

[増田弘道,Business Media 誠]
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ロボットはフランケンシュタイン!?

 日本では産業用ロボットにニックネームを付けて親しみを表すといった職場風景が見られように、ロボットは“みんなの友だち”である。それは『鉄腕アトム』の主題歌からも分かる。

 ところが、これは欧米ではとんでもない風景であるようだ。なぜなら彼らのロボットのイメージは『フランケンシュタイン』の人造人間だからである。1818年に原作が出版され、1931年に米国のユニバーサル映画が映画化して大ヒットしたこのキャラクターこそ、西欧での「人造人間(ロボット)=人間に危害を及ぼす悪魔」というイメージを代表しているのだ。

 さらに現代で言えば、アーノルド・シュワルツェネッガー演ずる『ターミネーター』がそうだ。1作目に登場する殺人マシーンとしてのロボットは、まさに知能を与えられた『フランケンシュタイン』の人造人間だった。

 その見方がダイレクトに出ていた映画が2004年の『アイ, ロボット』である。この映画はSF小説の巨匠であるアイザック・アシモフの『われはロボット』を原作とした映画だが、この種の作品の定番であるロボットの反乱がストーリーの基本構造となっている。劇中、ウィル・スミス演じる主人公の刑事がバーでビールを飲んでいるシーンで、テレビのニュースに出てくるロボットを「フランケンシュタイン」と呼ぶが、西欧における伝統的なロボット観を余すことなく伝えている場面である。

西欧におけるロボットのイメージ

 「ロボット」という言葉が初めて登場したのは、チェコスロバキアの作家カレル・チャペックが1920年に書いた『ロボット』という戯曲でのこと。

 この小説では、人間的な感情を得たロボットが、自らの奴隷的な状況に反抗して、自分たちを作った人間を殺すという結末になっている。巻末の解説を読むと、ロボットの語源はチェコ語で「賦役」、ロシア語で「労働」を意味する「robota」(ロボタ)と推測される、とある。そもそも、キリスト教圏で「労働」はアダムとイブがサタンに誘惑され、禁断の実を食べた原罪として与えられたものと考えられているからイメージが良くない。

 そもそも、『フランケンシュタイン』の人造人間のように人が生命を作るという行為は、造物主である神をも恐れぬ不埒(ふらち)な仕業という考え方がキリスト教には根強くある。この宗教観がクリスチャンにすり込まれており、ロボットのイメージを悪くしている。

『マトリックス』に隠された伝統的構図

 世界中で大ヒットした『マトリックス』にも、まったく同様の構図が見える。

 『マトリックス』の1作目は、バーチャル空間を創造して世界を支配するコンピュータに戦いを挑む男を描き、そのスタイリッシュな映像と先進的なテーマで衝撃を与えたが、シリーズが進むにつれそのストーリーの根底に伝統的なロボット観が横たわっていることが分かってきた。それは、2003年のシリーズ2作目『マトリックス リローデッド』の直前に発売された『アニマトリックス』で明らかにされた。

 『アニマトリックス』は、『マトリックス』の監督であるオウチャウスキー兄弟がプロデュースしたオムニバスアニメ作品だが、「The Second Renaissance Part1」「The Second Renaissance Part2」というオウチャウスキー兄弟自身が脚本を手がけたエピソードが2つ入っている(監督は『青の6号』『巌窟王』を手がけた前田真宏)。

 オウチャウスキー兄弟脚本のこのストーリーで描かれているのは『マトリックス』のプレヒストリーである。それは、近未来にロボットが独立国を創り、人間と戦争を起こすというものであるが、いつまでも消えることのないロボットに対する西欧人のトラウマが見られる作品である。

 こうした不安をアシモフは“フランケンシュタイン・コンプレックス”と名付けたが、一方で『トランスフォーマー』のように海外でもヒットしているロボットキャラクターがある。後編では、『トランスフォーマー』がヒットした背景に迫っていく。

 →「アニメビジネスの今(後編):米国でガンダムよりトランスフォーマーが売れるワケ

増田弘道(ますだ・ひろみち)

1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。

ブログ:「アニメビジネスがわかる


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