ゴビンダさん釈放の陰で報じられない、“灰色受刑者”たち窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年06月12日 08時01分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 「東電OL殺人事件」のゴビンダ・プラサド・マイナリさんが釈放された。DNA鑑定で真犯人が別にいるという可能性が高くなり、裁判のやり直しが認められたからだという。

 そう聞くと、「そりゃ当然だろう」と多くの人が思うだろうが、日本の司法でいわゆる「アナザーストーリー」が認められることはほとんどない。ゴビンダさんはかなりラッキーだ。

 警察に一度でも「クロ」だと判断された者は、裁判で何をどう訴えても、勝ち目がないので、やがてあきらめる。刑務所に入ったら入ったで、不平不満を訴えようものなら「反省していない」と判断されて、どんどん仮釈放が遠のくので、黙りこくる。

 「オレはやってない!」という叫びがようやくあげられるのは、務めを終えてシャバに出てから、というブラックジョークみたいな境遇の人が、実は世の中には結構いる。

 ノンフィクションライターという肩書きで仕事をしていると、そんな人たちから「話を聞いてください」といわれることがよくある。少し前に会ったAさんもそうだ。

 3年ぶりにシャバへ出てきたAさんは、杉並区の小学校前で、通学中の児童のすぐ横で、警官から拳銃を奪って発砲した。

 なんてことを聞くと、ヤクザかなにかかと思われるだろうが、職業は内科医。青っ白い顔に、女性のようにか細い腕で、聞けば、腕立て伏せが1回もできないという。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.