この連載は書籍『ソーシャルインフルエンス 戦略PR×ソーシャルメディアの設計図』(アスキー・メディアワークス)から抜粋、再編集したものです。
企業のマーケティングや広告、PR、ソーシャルメディアの担当者たちが日々頭を悩ませていることは、CMのクリエイティブやメディア露出量、集客数、フェイスブックの「いいね!」の数などです。ところが、それらは手段であって目的ではありません。本当の目的は「世の中を動かし、ブームを起こす」ことです。
消費者の価値観やメディア環境の変化、特にソーシャルメディアの登場によって、かつてのコミュニケションプランニングでは世の中を動かすことが難しくなってきました。そこで、新しい時代のコミュニケーションコンセプトが必要です。
本書では、ソーシャルメディアや戦略PRの限界を超えて、「人を動かし、話題を起こし、世の中を動かす」新しいチカラ、「ソーシャルインフルエンス」の全貌とその方法論について解説します。
2010年から2011年にかけてアラブ世界で発生した、大規模な民主化運動が「アラブの春」だ。日本でも広くマスコミで報道されたことは記憶に新しい。チュニジアでの暴動がきっかけとなり、あっという間に運動はアラブ諸国の広範囲に拡大した。背後でソーシャルメディアが果した役割も大きいとされ、その規模や拡大のスピードからして前例のない革命のムーブメントとなった。
一方のAKB48。もはや言うまでもないが、2005年に秋元康氏のプロデュースで誕生して以来、「AKB現象」とも呼ばれる旋風を巻き起こし、2011年には日本レコード大賞を受賞。国民的アイドルグループに成長した。遠い存在だったアイドルの成長をファンが身近に共有するという発想が、これまでにないムーブメントを実現したといわれている。
事象の説明はこのくらいでいいだろう。さて、このいろいろな意味で距離感のある2つのムーブメントだが、「影響力の与え方の変化」という視点で考察してみると、意外な共通点が見出せる。前の項で話した「3つの変化」で順に見ていってみよう。
まずは、「影響力のベクトル」。アラブの春の主役は、明らかに民衆からのボトムアップな影響力だ。これまでのような革命リーダーや宗教指導者の扇動ではない。Facebookを通じて、モロッコでは情報を共有した若者数千人がデモを起こし、サウジアラビアでは「怒りの日」のデモに1万人以上が賛同した。これらの動向に影響を受けた政治指導者が、それをふまえ自らの影響力を行使しようとする。さまざまな影響ベクトルが交錯しながら革命は進んでいった。
AKB48では、影響力のベクトルは、AKB48のメンバー、仕掛け人である秋元氏、そしてファン層の間で交錯している。ファンがソーシャルメディアというツールを得たことも大きいが、例えば「○○ちゃんは歌がうまい」「○○ちゃんは絵がうまい」という声がファンからあがれば、ソロデビューが決まったり、「美術部」が発足したりする。ファン=消費者であった従来のエンタテインメント業界の常識を超えた、ボトムアップの影響力が組み込まれているわけだ。
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