人間はロボットではないんだ――ムハマド・ユヌス氏が考える資本主義の次の世界(2/3 ページ)

» 2012年08月02日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

動物は失業しているか?

――ユヌス先生は1970年代に米国で資本主義の経済学を学ばれましたが、バングラデシュに戻った時にまったく役に立たなかったという話がありました。それは今のユーロ圏の人たちに対する予言でもあるのかなと思いました。ソーシャルビジネスとは対極にある、今のユーロ圏が抱えている経済問題についてどのような見識を持っていますか?

ユヌス 物事をすべて隔離してとらえていることが問題だと思います。ユーロ危機、金融危機、失業問題、食糧危機といったことは、別々の危機ではありません。1つの危機の別々な現れ方で、それがたまたま細かく分類されているだけです。

 なぜなら、このような危機は根本的なところで共通した1つの大きな欠陥を持っているからです。それは、人間を解釈する上で誤った解釈を優先しているからということです。人間は本来、もっと大きなものです。その人間に、機械のように小さな役割しかあてていないことが大きな問題です。人間的な役割を持たせるようにすれば、そういったものはすべて解決します。

 私たちは200年前から、経済の体制を作ってきた歴史があります。しかし、古いクルマを少し修繕して、また進むようにするというようなことを繰り返していますが、私たちはそのような体制を根本的に作り変えないといけない時代に来ています。古臭い理論の中でビジネスをしたり、家族という概念を守ったりするのではなく、広く人間性をとらえて、人間の能力を最大に発揮した中で、人間はもっと大きく伸びるということを知ってください。

 今、スペインの若者たちは、半分以上が失業しています。彼らは起業精神が旺盛で、力もあり、テクノロジーも知っている世代なのになぜでしょう。準備をして、仕事に就こうと思っても、職がない。誰の責任でしょう。本人の責任ではありません。

 努力が無駄になっているのは、制度のせいです。そういった中でもう古い体制にしがみつく必要はありません。もう捨てる時期なんです。欧州だけでなく、バングラデシュやインドの若者もそうです。テクノロジーはビジネスを大きくしましたがその半面、雇用はどんどん縮小しています。テクノロジーが、私たちはどこに行けばいいのかというところにまで押しやっています。

 少しジョークを。「動物が失業している」という話を聞いたことがありますか。いろんな教育を受けて、すばらしいテクノロジーを知っている人間の半分が失業しているのはバカげたことだと思いませんか。そういう人間を有効に使っていただきたい。

――ソーシャルビジネスをやっていこうとすると、どういったテーマ規模がいいのでしょうか。貧困を無くすなのか、世界を良くするなのか、バングラデシュの貧困をなくすなのか、この村の貧困をなくすなのか。どういった規模感で事業を考えていくのがいいのでしょうか。

ユヌス 貧困をなくそうとすると、いろんな問題が立ちはだかると思います。民族対立、ホームレス、環境の改善、字の読み書きができないのを変えていく、また貧しい人はヘルスケアが日本ほど恵まれていないので、米国も含めて大きな問題になっています。

 いろんな問題はあるのですが、どうやってやるかという問題解決の方向性について今の私に答えはありません。しかし、自分の足元の問題を解決することから、非常に大きな形の問題解決ができると思います。

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