――講演の最後で「人間の解釈が間違っている」とおっしゃっていましたが、今、正しく人間を解釈しているような団体や活動、制度があればお聞かせください。
ユヌス 正しい解釈をしているところというのは、私には残念ながら今すぐには思い当たりません。
今までの資本主義は利己主義中心であったために、うまくいかなくなりました。そこに無私の心を持つソーシャルビジネスという2本目の足を加えていく。資本主義をなくすのではなく、ソーシャルビジネスを加えるという形で、より正しい解釈について考えていく。ですから、ある意味、3本目の足、4本目の足という話もあるかもしれません。それほど人間性というのは多次元なもので、いろんな可能性をどんどん入れていくことで現実的なものになるわけです。口を酸っぱくして言っているのは、「人間はロボットではないんだ」ということです。
ですから、ソーシャルビジネスを提唱してるからといって、普通のビジネスをやめろという話ではありません。代替策ではなく、追加の付加価値というところで選択肢を増やすということです。そしてさらに別のドアもあるのではないかとも主張しています。
――ソーシャルビジネスをしていく上で、給料についてどのように考えればいいですか。
ユヌス 先ほどソーシャルビジネスは無配当と話しました。それを理解していただいた上で、給料に関してですが、市場価値に基づいた正統な給料になります。事業目的は利益追求ではなく、問題解決なのですが、費用がかかるものはかかるということで、いろいろなコストはかかります。最低賃金という縛りもありますが、原則的にはそれよりも良い給料にして、法外な給料を経営者がとるということにはならないようにしています。
――ユーロについての質問への答えで、失業しているひとりひとりに何の責任があるんだろう、それはシステムが間違っているからだというお話がありました。システムは人が作ったものだという観点からすると、その人間のところにメスをいれなければいけないという考え方を持ってしまうのですが、その考え方で正しいのでしょうか。
ユヌス ソーシャルビジネスは金儲けではなく、問題解決をしていくわけですが、その副産物として雇用を生みます。持続可能な仕事を与えることで、解決する問題もあるわけです。金儲けでは、20%以下のリターンしか生まないビジネスには参入しないかもしれないですが、ソーシャルビジネスでは0から20%以下のリターンでも参入できるわけです。
目が不自由な人がいたらどういう仕事が一番いいか。耳が不自由な人や口がきけない人でも、味が分かればレストランでシェフになれます。そのような最適化をして、失業を防いでいくことで、仕事を作る。シングルマザーが在宅勤務できるようなアイデアがあれば、新たなビジネスを創り上げることもできます。
――バングラデシュは、日本人からすると貧困のイメージが強すぎるように思います。バングラデシュの経済の成長について、どのように考えていますか。
ユヌス バングラデシュは、貧しいとおっしゃいました。しかしミレニアム開発目標※では、2015年に貧困を半分にすることをうたっています。私は2015年より前に達成できると思います。
問題は貧困がゼロになるのがいつかということですが、私は2030年だと思います。2031年の1月1日、「もう貧しい人はいないので、貧しい人を見つけたら100万ドルの賞金を出す」と新聞に出るような時代が来ると思います。
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