Fair valueとMarket value、どちらの価値を意識するべき?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2012年08月13日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2005年9月28日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 「Fair value」と「Market value」という言葉があります。Market valueは「市場価値」、Fair valueは「公正な価値」か「正当な価値」でしょうか。Market priceとFair priceとも言えます。

 バブルのころ、土地の売買はMarket priceに基づいて行われていました。ある土地を「明日100億円で買う」人がたくさんいるという理由で、今日「90億円で買いたい!」人が現れるのです。明日、「100億円で買いたい!」人が現れる理由は、「1週間後には110億円で買う!」人が現れると確信しているからです。

 こうして市場価格はどんどん上がっていきました。

 実際には、その土地にマンションを建てた場合、5000万円で売れる部屋を100戸作るのが設計上ぎりぎりだったかもしれません。その場合、販売総額は50億円ですから、建築費を考えれば土地の「正当な価格」は50億円以下です。賃貸マンションやオフィスビルを作った場合でも、将来得られる家賃の総額が正当な価格の上限になるはずです。こういう価格はFair priceと言えます。

 バブルのころは、土地売買をする人だけでなく、彼らに融資をする銀行も「この土地を100億円で買う人がたくさんいる」という理由で、その土地を100億円と評価し、それを担保に100億円まで融資をしました。銀行は「市場価格」に基づいて融資をしたわけです。あのころはみんな「土地の値段は上がり続ける」と信じ、土地の利用価値などまったく気にしていなかったのです。

 ところが、ある日突然「明日100億円で買うよ」と言っていた人がいなくなりました。政府の方針転換により、不動産取引のために貸せるお金の総量に制限が課されたためです。そして、不動産は一気に売れなくなりました。

 この時に起こったことは、土地の価格が「市場価格」から「正当な価格」のレベルまで低下する、という現象でした。

 100億円の市場価格がついていた土地が、Fair valueである50億円以下でしか売れなくなり、その土地を100億円で買った会社は倒産、その企業に融資をしていた銀行は、担保の土地を処分しても借金を回収できず、不良債権を抱えました。

 この場合、市場価格は一気に下がりましたが、正当な価格の方は大きくは変わっていません。バブル崩壊とは「市場価格の下落により、2つの価格の乖離(かいり)が一気に縮小した現象」と言うこともできるし、「土地のプライシング方法が市場価格から公正な価格に変わったのだ」とも言えます。

 Market priceで買うべきか、Fair priceで買うべきかという議論は、企業買収の際の株価のプライシングにおいても起こります。A社の株式の過半数を買って買収しようという場合、「親会社やその会社の経営陣が、高値で買い戻してくれるだろう」と思えば、彼らが払えそうな価格の少しだけ下の価格で買えばいいということになります。これが市場価格です。

 しかし、企業を買収した後にその事業を運営していきたいなら、「いったい将来にわたっていくらのキャッシュフローが得られるか?」ということを計算し、その価格以下で買わないと投資が回収できません。

 つまり「売り抜ける気か?」それとも「経営しようとしているのか?」によって、最初に買い占めを始める時の“妥当な価格”は大きく変わってきます。目的によって「市場価格と公正な価格のどちらで買うべきか」は異なるのです。

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