「津波浸水想定区域」は今、どうなっているのか相場英雄の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年09月06日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

「やませ」で視界不良

 東北沿岸の幹線道路を走ると、しばしば「津波浸水想定区域」の標識に出くわす。

 野田村に向かう際も、高低差の激しい国道45号線や県道でこの標識を目にした。言うまでもなく、この標識の先が大津波の甚大な被害を受けたエリアだ。

 峠道をいくつか越えると、「野田」と表示された標識が増えてくる。だが、あいにく沿岸を訪れたこの日は現地特有の「やませ」に伴う霧が酷かった。自家用車のフォグランプを灯しても、視界はほんの20〜30メートル先が見渡せる程度。

 国道から野田漁港を目指すと、工事中を告げる看板が見えた。濃霧のなか目を凝らすと、数人の老人が岸壁で釣り糸を垂れていた。真っさらになった漁港設備の跡地とのどかな釣り人。アンバランスな光景だ。重機の音が聞こえてくる。クルマに戻り、音を頼りにして進むと、漁港のすぐ近くに村の瓦礫置き場があった。

東北沿岸の幹線道路を走ると、しばしば「津波浸水想定区域」の標識に出くわす(左)、野田漁港を目指すと、工事中を告げる看板が見えてきた(右)

 のどかな釣り人の背後では、仕分けされた瓦礫がうずたかく積まれ、重機がせわしなく動き回っていた。

 今年前半、私は複数の新刊プロモーションに追われ、ほとんど沿岸被災地に足を運ぶ機会がなかった。

 野田村の瓦礫置き場を目の当たりにしたとき、めまいに似た感覚に襲われた。岩手日報が伝えていた通り、村内の主要な道路は復旧が進み、私のような観光客でも全く不自由なく通れた。だが、その真横には、依然として2011年3月の痕跡が残っているのだ。沿岸各地の友人や知人から遅々として捗(はかど)らない瓦礫問題の根深さを聞いていたが、やはり自分の目で見ると、その現状が理解できる。

野田村の主要道路は復旧が進んでいるが、瓦礫問題は解決していない

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