閑話休題。
今年春、私は担当編集者とともに都内の飲食店に行き、岩手県陸前高田市出身だというスタッフと知り合いになった。同市は大津波により壊滅的な被害を受け、市街地の大半が流された。実際に何度も現地に行き、そのすさまじい被害状況を知っていただけに、私はスタッフの前で身構えた。幸い家族は全員無事だったと聞かされ、私は胸を撫で下ろした。
話が進むうち、スタッフの幼なじみと幼い子ども2人が犠牲になったことを知らされた。返す言葉がなかった。しかし、このスタッフは意外なことを言い出した。
「幼なじみの葬儀には間に合わなかったが、可愛いスケッチを遺族から見せてもらった。生前の優しい顔だった」
後日、同氏が描いた『おもかげ復元師の震災絵日記』を手に取った時、まさしくこのスタッフの幼なじみと子どもたちの絵が掲載されていた。
大げさなことを記すつもりはないが、絵本を持つ手が震えた。同時に、今年初めに逝った新潟の友人の穏やかな顔が私の頭の中に蘇った。
笹原氏が実際に復元された母子3人のお顔も『震災絵日記』に載ったようにほほえんでいたに違いない。
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