ビジネスのカギは大きな気付きとは限らない(2/2 ページ)

» 2012年09月18日 08時00分 公開
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“損して得取る”戦略

 さて、こうしてサービスとして実現されてしまえば、たいしたことのないように思えますが、「音楽を始めようと思っていても、最初にどの程度の楽器を買えばいいか分からない」という消費者の不安に気付き、「適切な楽器を入会とセットで提供すれば解消できるだろう」というアイディア(そう考えただろうという推測ですが)に結びつけたのは、素晴らしい「インサイト」ではないでしょうか。

 現状では、既存の音楽教室はどこもやっていない。だからこそ、EYSが新興ながら成長しているKFS(Key Facters for Success)になっているのだと思われます。

 ただ、無料で提供するということは当然ながら教室側の持ち出しであり、利益率を下げることにつながっているのは間違いないわけです(レッスン料金を高額にして、楽器代分を回収するようなことはしていない)。

 それでも、EYS創業社長の吉岡秀和氏は、“損して得取る”戦略をあえて採用したのだそうです。

 なお、EYSでは、入会者に対し、毎回のレッスン後に必ずメールを送ることに加えて、休んだ会員に対しては、「講師直筆の手紙」を送っているそうです(こうした丁寧な対応ができるのは、外部講師ではなく、ほとんどの講師を正社員として雇用しているからこそ徹底できることでしょう)。

 見込み客には、楽器無料プレゼントで入会のハードルを下げる。そして、既存会員には、手間のかかるコミュニケーションをあえて行うことで、講師との関係性を深めて退会率を下げる。さらに、レッスン後にくつろげるスペースとして設置したラウンジでは、生ビールを1杯100円で提供して会員間のコミュニケーションを深めるようにしている。

 どれも簡単にできそうで、実はそう簡単には実行できないことをきっちりやっているEYSは、今後、音楽教室業界を席巻するかもしれません。(松尾順)

※日経新聞本紙(2012/09/14)、日経産業新聞(2012/19/14)の記事を参考にしました。

 →松尾順氏のバックナンバー

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