“平均的顧客”はいない! 顧客を切り分けて考えよう(1/2 ページ)

» 2012年09月21日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 仕事や家事に追われ、どんよりとしてしまった気持ちを癒やし、豊かな気分にさせてくれる「芸術鑑賞」。日経産業地域研究所が実施した最新の調査(2012年8月、全国20〜60代男女1000人)によると、過去1年間で美術展や演劇などの芸術を鑑賞したことがある人は全体で67.0%でした。

 多かった芸術カテゴリーは1位「映画」(50.9%)、2位「美術展」(27.8%)、3位「ポピュラー音楽」(18.9%)となっています。

 一方、上記のようなカテゴリーとほぼ同じくらい頻繁に、あちこちで開催されている「クラシック音楽」は上位には上がってこず、また、「今後、行く機会を増やしたい芸術鑑賞」についての設問では、「クラシック音楽」は全体で19.4%。「ポピュラー音楽」(28.0%)、「美術展」(27.9%)、「演劇・ミュージカル」(22.3%)にかないません。

 クラシック音楽、特にオーケストラ(交響楽団)の場合、プロにしろアマチュアにしろ相応の人数が必要であり、コンサートホールも相応の大きさを確保しなければなりません。数人でもユニットが組め、小規模なライブハウスでも気楽に演奏できるポピュラー音楽と異なり、オーケストラの運営は大変厳しいものがあるのはご存知かと思います。

 オーケストラの多くは「会員制度」を採用し、会費収入と、固定客化の推進によって、安定した収益確保を狙うのが基本的な戦略です。ただ、具体的な顧客コミュニケーション施策において、きめ細やかな顧客タイプ別施策が行えているオーケストラはそれほど多くないのではないでしょうか。

 『ザ・ディマンド』には、オーケストラのマーケティングについてとても参考になる事例が紹介されています。2007年、米国の9つのオーケストラが協力し、「聴衆増加イニシアチブ」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げました。

 そして、このプロジェクトの下で行なわれた調査の結果によれば、9つすべてのオーケストラが抱える大きな問題は、「顧客離反」であることが明確になったのです。

 毎年入れ替わる顧客の割合は55%。特に、初めてコンサートを聴きにきた人=「トライアリスト」の離反率は91%にのぼったのです。つまり、トライアリストの10人に9人は二度と聴きに来ないのです。

 オーケストラを長期的に支えてくれる「コア・オーディエンス」と呼ばれる人々は、「サポーター会員」として会費も払ってくれる人々であり、全体の26%を占め、チケットベースでは56%を占める貢献をしてくれています。オーケストラは、こうしたコアオーディエンスを満足させることには習熟していました。

 しかし、将来の会員候補である「トライアリスト」をリピートさせることには失敗していたというわけです。

       1|2 次のページへ

Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.