自分ができることを可視化しておくことが重要であるという話は、キャリアを考える上でよく語られる話です。「キャリア 棚卸し」と検索してみると一目瞭然ですが、そのノウハウはネット上に山のようにあります。その情報を提供している先を確認してみると、転職支援を行っている企業によるものが多いはずです。
彼らにとって、転職を考える人たちに今までの経験を言語化させることには重要な意味があります。それは「その人が、どこの企業の求人ニーズにマッチしているのかを理解する」ために必要な材料になるからです。その人がどんなことをやりたいのか、ということも当然意識しますが、それ以上に、その人に「どんな市場価値があるのか」を見たいのです。経歴が整理されて、スキルが言語化されていれば、売り込む先は見つけられる。一種のタグ付け作業のようなものだと捉えてもらえばいいのかも知れません。
しかし、整理した側は「これだけいろいろとやってきたのだから、それを生かして転職しなきゃ」と考えてしまう。そのギャップが埋められないまま、ズルズルと仕事が決まらない、という状態になってしまうのですね。しかしその勘違いを指摘する人は少なく、たいていは「もっと広い視野を持ってください」という抽象的なアドバイスが飛び交う、ということになるのです。もっと現実を直視してくださいという厳しい言葉を投げつけられても「できることはこれしかないのだから、それが生かせる仕事に就くこと以外に考えられないだろう!」と叫びたくなってしまう。
「決まりやすいのは『仕事だったらなんでもやります!』という人です」と、再就職などを支援している現場では言われています。経験に裏付けられた能力やスキルがないのは論外。ただ、それがあったとしても、自分のやりたいことや就きたい仕事にこだわってしまうと道がとたんに塞がれる……それが中高年の転職の実態なのです。
ここには、自分の持っている能力と企業が欲しがる能力にギャップがあり、なおかつ、能力そのものをアセスメントする方法も多くない上に、正確にもできないという、転職市場における根本的な問題が横たわっています。正解がなく、ケースバイケースであることを承知の上で、もう少し働く人の立場になった仕組みを誰かが提示しない限り、働けない人たちが世の中にあふれてしまう。その可能性を視野に入れるべきだと、ひずんでしまった転職マーケットの周辺に身を置くものの一人として、ここでつぶやいてみるのです。
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