新指導部が目指すものは? 中国政治の行く末を占う藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年10月29日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 11月8日から1週間にわたって開かれる中国共産党大会。そこで新しい指導部が選ばれる。党総書記には習近平国家副主席、新しい首相には李克強副首相が就く。そして国家の最高指導部である党政治局常務委員は9人から7人に減るという見方が強い。注目されるのは胡錦濤総書記が、党中央軍事委員会の主席からも退任するかどうかだ。中国人民解放軍の最高指導者の地位を保てば、前任者の江沢民前主席と同様に影響力を保持できるからだ。

 指導部がどのような構成になるかは、もちろん日本を始め、近隣諸国にとって重大な関心事だ。中国という国は13億人(一説には16億人ともいう)の人口を擁する大国であり、なおかつ食糧も含む資源を大量に消費し、輸入する国になりつつある。ベクトルが外を向いているわけで、その巨大な龍が何かを求めて一歩踏み出せば、周囲に与える影響は大きい。

 「今は政治体制が違う中国も、やがては民主主義化し、経済も市場経済になる」、多くの人々はそう考えてきた。人口も多く、経済格差も大きい国であるだけに、すぐに民主主義化するのは無理だとしても、フランシス・フクヤマが『歴史の終焉』で書いたように、民主主義こそ人類の歴史の上で最後の政治形態であると思ってきた(賢人による強権政治がうまく行った国もあるが、賢人政治が長期にわたって続いた例はない)。

 しかし民主主義=自由市場に対して大きな疑問符が付いている。2008年のリーマンショックは、市場経済が失敗した例だ。先進国でも、金融市場を野放し(自由化)した結果、とんでもない災厄をもたらしたという反省から、どこまで金融機関を規制するかが問題になっている。EU(欧州連合)では、加盟国の金融機関を統一的に監督規制する「銀行同盟」構想が議論されている。

 そして中国は「国が経済をコントロールしないと市場は暴走する」という考え方が強くなっているようにみえる。ここが大きなポイントだ。もし市場経済化が国民に格差をもたらすものであって、国が適正に介入することが必要だということになると、その度合いによっては非常に取引しにくい相手になるかもしれない。そして何よりも危険なのは、自国の産業や企業を発展させるために、国家がその力を使うという状況である。政治的に言えば、中国の帝国化である。

 19世紀の欧州のように力が拮抗した国がある場合は、そのパワーをバランスさせることで平和を保ってきた。そしてその外交戦略の限界を悟った欧州は、第二次大戦が終わってすぐに「統合」に向けて動き出した(そしてユーロ圏の危機を受けて、今さらに統合を進めようとしている)。

 アジアの場合は、欧州と違って、同じ程度の力を有する国が集まっているわけではない。圧倒的なパワーである中国、中国の前に圧倒的なパワーを持っていた日本とその他の国という構図だ。こういった地域では、大きなパワーを持っている国が帝国(他国を事実上支配する国)が生まれる。

 第二次大戦前、日本も帝国化し、他国をその支配下においた。日本が帝国化したのは、一部の帝国主義者や軍部が独走したからではない。アジアで抜きんでた工業力を持つようになった日本が、自分を守るために資源の確保や防衛ラインの構築に動いたからだ。日本の周りは海で守られているとはいえ、その向こうに防衛ラインを設定しなければ、資源の確保はできない。

 第二次大戦後は、自由で安定した貿易航路が米軍によって確保されていたし、それを脅かす帝国もなかったために、日本はその恩恵を享受することができた。しかし自由で安定した貿易を守ることが各国共通の利益だという考え方は、実はそれほど長く続いているものではないし、世界各国が受け入れているというものでもない。

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